「あ、そういえば次はどこ行くんスか?」
「えっと…お腹も膨れたし、縁日とかどうかなって。」
「縁日!わぁ、そういうのも楽しいですよね!」
方向も知らないのに、2人でさっさと歩いていくお師匠様と桃ちゃん。
その後ろを追いかける私達。
意外にも目的地への方向は合ってるのでそのままついていくと、
廊下の突当りでやっと2人が立ち止まり、こちらを振り向いた。
「…、この方向で合ってるの?」
「うん!次は縁日に行こうと思って。そこを右に曲がった教室だよ。」
「お、いいッスねー。なんか懐かしい音が聞こえる。」
かすかに聞こえる、太鼓や笛の音。
小さい頃の記憶が蘇るような、お祭りのBGMだった。
音楽につられるように廊下を進むと、時間が早かった為か
まだほとんどお客さんはいない状態だった。
「「いらっしゃいませ!」」
教室の中に一歩足を進めた時、横から飛び出してきたのは
可愛い双子の女の子だった。
突然の登場にも驚いたけど、びっくりしたのは教室の内観。
同じ縁日クラスの宍戸達は「夕暮れ」の感じを表現していた気がするけど、
このクラスは完全に「夜のお祭り」を作りだしていた。
真っ暗な中にまばゆく光る星空は、きっと
プラネタリウムか何かだろう。
そして、教室のそこかしこにある屋台には、裸電球がつりさげられていて
ぼんやりと光が見える。
1-Dは自分たちの教室ではなく、少し広めの多目的室を使用している。
後ろでカッツォがガラガラとドアを閉めると廊下からの光が遮られて、
本当に夜の街に出てきたような気分になった。
「…す…っげぇえ!本当の祭りに来たみたい!」
「雰囲気あるなー、この音もなんかワクワクするし。」
辺りを見回して口々に感嘆の声を漏らす皆。
私も同じようにワクワクしていた。
「「今日はお祭りです。一緒に楽しみましょう。」」
綺麗にハモったその声に、私たちの会話が止まる。
綺麗な浴衣を着て、にこにこと笑う双子ちゃん。
1人はヨーヨーを持ち、もう1人は頭にお面を乗せている。
「「だけど、このお祭りは特別。私たちは"D"の神様に見守られています。」」
おそらくこのクラスのキーワードであろう"D"について、
双子ちゃん達が話し始めた。全くブレない2人の声に
何かトリックでもあるのかと、不思議そうに聞き入る私達。
「「神様は"D"のつくことが大好き。だからこのお祭りでは"Double"(ダブル)で行動します。」」
ガシっと腕を組んで微笑む双子ちゃん。
夜の暗闇の中なので、ハッキリと顔は見えないけれど
その感じがまた、リアルなお祭りの雰囲気を醸し出している。
「「屋台では神様の大好きな様々な遊びが楽しめます。」」
「「でも気を付けて。神様はなんでもダブルが大好き。」」
「「2人で協力しないで、喧嘩なんかしたら罰が当たるかも。」」
笑顔を崩さず淡々と2人同時に話すから、本当にロボットに見えてきた。
それは皆も一緒だったようで、ますます疑いの目を強めていた。
「「でも2人が仲良く遊びに成功すれば、絆の証がもらえるよ。」」
ごそごそと巾着袋から取り出したキラキラの石を2人が掲げる。
「「絆の証を2つ集めてお参りすれば、神様からご褒美があるかも。」」
「「それじゃあ、またね!いってらっしゃい!」」
小さく手を振って、走り去った女の子たち。
それと入れ替わるかのように、受付係らしい女の子が1人現れた。
「それでは、今から自由に屋台を回っていただきます。
そこで遊べるゲームに成功すると、先程の証がもらえます。」
「それを2つ集めて奥にあるお社にお参りしていただいて、終了です。」
「では、2人組を作ってもらえますか?」
1年生の割には落ち着いた雰囲気の女の子が、優しく微笑む。
手に持った6本の割り箸を私たちに差し出した。
…2人組。なるほど、私たちは全員で6人だから3組出来るのか。
「なんか面白そうだな!じゃあ、俺はこれ。」
「じゃ、じゃあ僕はこれ。」
「あ、これで…。」
「うーむ、じゃあ…俺はこれにします!」
「………、選びなよ。」
「え、あ。じゃあ、これで。」
順番に割り箸を掴む。
余った一本をお師匠様が掴んだところで、桃ちゃんが大きな掛け声を響かせた。
「っせーの!!…ん?暗くて…これ"3"か?」
「あ!桃ちゃん先輩、俺も"3"ッス!」
「僕は…"2"だ!」
「あ、僕も。じゃあカツオ君とコンビだね。」
次々とペアが決まっていく中で、まだ声をあげていないのは
私とお師匠様だけだった。
薄暗い中でお互い顔を合わせて、どちらからともなく割り箸を見せ合う。
「"1"…!お、おおおお師匠様よろしく!」
「…よろしく。」
「決まりましたか?それでは、いってらっしゃい。」
「よっし、じゃあ各自"証"を集めてお社で集合な。行くぞ、堀尾!」
「はいッス!桃ちゃん先輩、1番にお社にゴールしましょう!」
「お、いいな!サクっと集めるか!」
早速、屋台へと走り出した桃ちゃんにホリー。
それに続いてカッツォとカチローちゃんも、楽しそうに屋台を選び始めた。
夜の暗さに溶けていくみんなを見送って、私とお師匠様も歩き出す。
・
・
・
「わぁー、なんかいっぱい屋台があるよお師匠様。」
「そうだね。取り敢えず屋台で証を集めればいいんでしょ。」
「うん、でも仲良くって言ってたよね、仲良く。」
「そこ重要?」
「重要だよ!きっと最後のお社でのご褒美っていうのも、何か関係あると思う。」
「……学園祭の出し物でそんなにこだわるかな?」
「…フフ、こだわるよ。氷帝学園はこの学園祭にかけてるからね!」
まだ学園祭の一部しか見せていないお師匠様に、いかに学園祭に力が入っているかを
力説しているところに、さっき屋台へと走って行ったばっかりのホリーがやってきた。
「へっへーん!どうだ越前!俺と桃ちゃん先輩コンビはもう1つめの証GETしたぜ!」
「ええっ!ホリー達早くない!?ちょっと見せてよ!」
「そこのピンボールの屋台でもらったんスよ。」
ホリーから手渡された黄色の石は確かにさっき双子ちゃん達が持っていた石だった。
だけど、色が違う。双子ちゃん達が持っていた石はピンクだった。
……特に意味はないのかな?と思いつつも何となく気になる。
2人が挑戦した屋台はピンボールらしく、1人1台のピンボールで
15点以上ボールが的に入れば証がもらえるというルールだったらしい。
「…、そろそろ屋台決めた?」
「…うーん、そうだね。…あ、あれカッツォ達じゃない?」
「本当だ。何やってんのアレ。」
1つの屋台に近づいてみると、カチローちゃんとカッツォがスプーンを持ち
その上に乗せたピンポン玉を慎重に運んでいた。
「カチローちゃん、頑張れー!」
「うわっ!あっあああ落ちる!!」
なんとなく声をかけたのがいけなかったらしく、カチローちゃんがスプーンに乗せたピンポン玉は
ふわふわと床に落ちてしまった。咄嗟に謝ろうとしたけれど、
すぐにカッツォが次のピンポン玉を運んできたので、カチローちゃんも真剣にそれを受け取っていた。
しばらく見ていると、この屋台の遊びはどうやら2人で協力してピンポン玉をゴールまで運ぶ、というものらしい。
制限時間内に何個ゴールに運べるかで証がもらえるかどうか決まるそうだ。
「よし…っ、これで…10個!!」
「「やったぁ!」」
「おめでとうございまーす!見事2人で協力出来ましたね!
この屋台での証は"青色"です。もっともっと難しい遊びにも挑戦してみてね!」
青色。
飛び上がって証を受け取る2人を見て、なんとなく勘が働いた。
何かが引っかかっていたけど、今の店番の言い方でピンと来た。
心の中にあった迷いが解決した今、急いで屋台を見つけなきゃいけない。
「…ねぇ、。早く俺たちも「ちょっとお師匠様こっち来て!」
手を取り、少し屋台から離れた場所へ急いで連れ込むと、明らかに嫌そうな目を向けるお師匠様。
「…身の危険を感じる。」
「ぶっ!こ、こんな場所で何もしないよ、は、破廉恥なこと言わないの!」
「じゃあ何?」
「…あのね、気づいてた?あの"証"の色。」
「……そういえば最初に見たのはピンクだった。他は…黄色と…青?」
「でしょ?で、さっきの店番の行ってた≪もっと難しい遊びにも挑戦してね≫っていう言葉。」
「…確かにそんなこと言ってた。」
「それに最初の説明でも協調してた≪仲良く≫っていうのがキーワードだと思うの。」
「…なるほどね。」
ホリー達の挑戦したピンボールはほとんど1人の遊び。証の色は黄色だった。
それよりももう少し協力度が上がった遊びのカッツォ達は青色の証。
…となると、もっと協力度の高い屋台を探し出せば、きっとあのピンクの証がもらえるに違いない。
「…、案外冴えてるじゃん。」
「ふふっ、何言ってるのお師匠様。私の通り名は、氷帝が生んだ諸葛亮よ!」
「初めて聞いた。早く行こ、なんか面白くなってきた。」
ニヤリと2人で笑って、急いで屋台へと走った。
・
・
・
「お師匠様、ちょっと見てこれ!」
「何?いいのあった?」
「絶対これは2人の密接な協力が必要な遊びだと思う!」
そこの屋台に掲げられたルール版をじっくり読んだうえで
この遊びはおそらく100%ピンクの証がもらえるレベルのものだと判断した。
お師匠様にもそのルールを読んでもらう為、急いで呼び寄せた。
「…えーと…、≪まず1人が1人を抱き上げます。≫……絶対ヤダ。」
「ちょっ、も、もうちょっと先まで読んで!取り敢えず!取り敢えず!」
「……≪そして、A4用紙の上に立ちます。これで準備は完了、2人にどんどんクイズを出します。≫」
「≪クイズは全部で5問。但し間違える度に足元の用紙が2つに折りたたまれます。≫」
「≪用紙から少しでも足が出たら終了!2人で協力しながら最後まで立っていられるかな?≫……何コレ。」
「この屋台の遊びは明らかに他とレベルが違うよ!超協力度高いと思う!」
「…だからって…。」
「お師匠様、これは遊びじゃないの、あの証を手に入れてご褒美をもらうための儀式なのよ。」
渋るお師匠様の肩を揺さぶって迫る。
私がこんなに必死になるのには理由がある。
もちろんご褒美が欲しいというのもある。3割ぐらいある。
だけど…
こんなにお手軽なトキメキゲームを見逃すわけにはいかない。
あくまで目標達成のためと言い張って、自然にお師匠様と密着するチャンスだ。
私の頭の中には、目の前の可愛いお師匠様をお姫様抱っこしてウハウハするビジョンしかない。
そんな私の邪な妄想が漏れ出ていたのか、お師匠様が明らかに表情を歪める。逃がさないぞ。
「……なんでそんな必死なの。」
「ひっ…必死とかじゃないよ、ほ、ほらホリーや皆に負けたくないでしょ?お師匠様だって。」
「それはそうだけど…。」
「はい!もう決まりました!たった今、閣議決定しました、すいませーん!私達チャレンジしまーす!」
「毎度!それでは、こちらへどうぞー!」
「…はぁ、仕方ない。」
乙女のようにモジモジするお師匠様をあと3時間ぐらいは見つめていたい気持ちもあるけれど
ここで「やっぱりヤダ」ってなるのだけは避けたかった。
野党の承認を待たずに強引に推し進めると、仕方なくお師匠様も同意してくれた。
氷帝テニス部で培った「自分の意見を押し通さない奴は強者に従うのみ精神」が役にたった。
主にがっくんや宍戸とテレビのチャンネル争いをする時や、どのお菓子を買うかの喧嘩で培われた精神だ。
「では、抱っこする側と、クイズに答える側を決めて下さい。」
「はい、どうぞお師匠様。」
「……は?」
早速A4サイズの用紙の上に乗って、大きく手を広げると
お師匠様が青い顔でこちらを睨んだ。
「…え…。」
「なんで俺がに抱っこされなきゃいけないの?」
「こ…ここまで来たんだからさ、ちょっとだけ!ちょっとだけの我慢だよ!」
「絶対イヤ。」
「そんな…だ、大丈夫。私力には自信があるし…!」
「………。」
ついに黙り込んで、キっと私を睨むお師匠様に一瞬怯む。
…そ、そんなに嫌がらなくても…!
仕方なく一旦用紙から降りて、お師匠様に近づいた。
完全に機嫌を損ねたらしい。
「あの…ゴ、ゴメンね。やっぱり違うのにしよ…っか…?」
「……そうじゃない。」
「え?」
「…だから、男の俺が抱っこされるなんて嫌に決まってんじゃん。」
「…………………え?「何なのその間、ムカツク。」
「ごっ、ごめん…。いや、でもそれだとお師匠様が私を抱っこすることに…。」
「それでいいでしょ。」
「…そ…その発想はなかった…。」
「どんな頭してんの?」
「いや…でもだって…私重いし…押しつぶしちゃうよ…。」
「…………。」
「それに、なんか絵面的に…お師匠様に対する拷問みたいで…。」
「……うるさい。」
「わっ!」
自分がお師匠様に抱っこされるだなんて、恥ずかしすぎる。
やっぱり私がお師匠様を抱え上げる方が現実的だし…と悩んでいると、
突然膝のあたりから体がフワっと宙に浮いた。
咄嗟に掴まったのはお師匠様の首元で、
目の前に近づいたお師匠様の綺麗な顔に思わずのけ反った。
「っちょ…ちょちょちょ、待って!一旦落ち着こう!」
「いいじゃん、このままスタートさせて。」
「さぁ!それではクイズにまいります!」
軽々と私を持ち上げ、規定の用紙の上まで足を運んだお師匠様。
それが合図とばかりに店番が大きな声でスタートを告げた。
…………これは恥ずかしい…!
思い描いていた未来と違いすぎる光景に、急激に体が熱くなる。
目の前でダラダラと汗を流す私を見て、お師匠様がニヤリと笑った。
「それでは第1問!アメリカの首都は?」
「はい!ニューヨーク!」
「……バカ…。」
「え」
「残念ーー!答えはワシントン!早速用紙が小さくなります!」
「え、えっ!?」
強制的にもう1つ小さいサイズの紙へと移動させられるお師匠様。
恐る恐る下を見てみると、かろうじてお師匠様の両足が乗るぐらいの大きさだった。
……これ以上間違えるのはマズイ。
「ごっ、ごめんお師匠様!」
「………まだ大丈夫だから、集中して。」
「うん、あの、ちゃんと落ち着いて考える!」
「…そうして。」
年上としてあるまじきミスに、ますます顔が熱くなる。
周りから見れば、焦る私を見て優しく微笑むお師匠様の方が、年上に見えるかもしれない。
……大丈夫、あと4問。全部正解すればいいんだ。
「では第2問!妻はwife、それでは「ハズバンドォォォオオッ!」
「せっ、正解!おめでとうございます!」
「……そんなに叫ぶほどのこと?」
「…ちょっと昨日の弔い合戦っていうかね…。うん、いけそう!この調子!」
「…ップ、頑張ってよ。」
「うん!お師匠様は大丈夫?腕がもげそうになったりしてない?」
「……どっちかというと、の表情の方が面白くて困る。」
「ぶっ!…え、そ、そのー…あんまり見られると集中…出来ないっていうかー…。」
いつもより近い距離につい顔を背けてしまう。
…っく…出来れば反対の立場からじっくり観察したかったのに、
こちら側にくるだけでやたらと恥ずかしさが増すのはどうしてだろう。
「折り返し地点の第3問です!嵐、TOKIO、SMAP、メンバー全員の数を足すと何人?」
「えっ…ちょ…えーと…えーと…!」
「…まだ腕は大丈夫だから落ち着いて答えて。」
「…ありがと、お師匠様!…はい!15人です!」
「正解です!おめでとうございます、順調ですね!それでは、そのまま第4問!
英語で答えて下さい
"Can I ask you something?
Do you know what time does the Hyotei School Festival open?"」
「…………え、なに?」
急に流暢な英語を話し始めた店番の男の子に開いた口が塞がらない。
……ちょ…、え、英語で答えるって言ったけど…何言ったかわからない…!
「……嘘でしょ、ちゃんと考えて。」
「そ、そんな驚きを含んだ蔑みの目はやめてよ!だ、大丈夫、えーと…」
かすかに聞こえた「ヒョウテイスクールフェスティバル」の単語。
そして、「タイム」…何かの時間のことを聞かれてるのか。
学園祭の時間…なるほど!そうか、何時間開催されているかの問題だ!
「わかった!10,11,12…はい!9 hours!!」
「残念!不正解です!」
「…、本当に3年生なの?」
「………遺憾の意を表明します、申し訳ございません。」
ここで不正解したことにより、お師匠様のバランスがグっと悪くなった。
小さすぎる用紙の上に片足でなんとか立つお師匠様。
私を抱えたまま、片足で立つなんてさすがにキツいだろう…!
その証拠にお師匠様の表情も、先程より険しくなっていた。
「お、お師匠様、大丈夫!?」
「…大丈夫だから、次正解して早く終わらせて。」
「っ、了解しました!さぁ、次の質問を早くどうぞ!」
「はい!では最終問題です!九州地方の県名を全て答えて下さい!」
「全部!?…っえと、福岡県!佐賀県!長崎県!ぐわっ!」
「っ…!」
ここからはお師匠様との時間の勝負だと考えた私は、
必死に脳内に日本地図を思い浮かべる。大丈夫、きっと言える…!
ただ、それよりもお師匠様の力が限界に近かったのか
途中で大きく体が揺れた。
思わずお師匠様の頭を抱えこむように首にしがみつくと、さらにバランスが崩れた。
「わっ、わ!」
「っ、ちょっ…と離れて!」
「へっ、あ、ごめん!」
「……………。」
急いで手の力を緩めると、それに合わせてなんとか片足でバランスを取り直すお師匠様。
顔を覆うように抱き付いてしまったので視界が奪われたのだろう。
「だ、大丈夫?」
「……ギリギリ…。」
「っ大分県!熊本県!えーと…っ、えーと…!」
焦る私と、揺れる身体。
あと少し…あと少しだけ耐えて、お師匠様…!
「み、宮崎県!っかごしまあああ!!」
「正解です!おめでとうございまああす!!」
「っ!」
間一髪で耐えきった。
店番の振るベルが大きく鳴り響いた瞬間に、もう片方の足を地面につけたお師匠様。
その瞬間にそっと身体を下ろされた。
「お、おおおお師匠様やったよ!成功した!」
「…危ないところだったけどね。」
「おめでとうございます!最難関屋台チャレンジに成功したお2人の絆、
神様はしっかりと見届けて下さったことでしょう。ピンクの証を2つプレゼントします!」
どうやら私達以外にチャレンジしている人のいなかったこの屋台は、
予想通り最も協力度の高いものだったらしく、1回のチャレンジで2つの証を手に入れてしまった。
フと、屋台の周りを見ると、そこにはギャラリーと化した桃ちゃんやカッツォ達がいた。
「みんな!もう集めたの?」
「集めましたよー、でもお社に行こうと思ったら面白いもん見ちゃったから。」
ニヤニヤとからかうような目線を向ける桃ちゃんに、カっと顔が熱くなる。
み…見られてたのか、あの…あの情けない姿を…!
出来れば青学の癒し隊の前だけでは、頼れる年上お姉さん像を崩したくなかったのに
あんな簡単な問題にもすんなり正解できないところを見られたら…!
項垂れる私を見て、慰めるように肩を叩いてくれたカチローちゃんの目が
やけに生暖かかったのが、精神的にキツイ。
・
・
・
「ちぇー、結局ご褒美もらえたのは越前だけかよー。」
「ふっふっふ、皆…浅はかすぎたわね。私とお師匠様の冷静沈着な戦術を見習いなさい。」
「冷静沈着…ッスか。ぶふっ!」
「…桃ちゃん。そん…そんなにいつまでも笑ってたらこのお菓子あげないから!」
「すいません、思い出しちゃって!お菓子は欲しい!」
最終的にお社にたどり着いたとき、やっぱり青色の証と、黄色の証しか持っていなかった
桃ちゃん・ホリーペア、カッツォ・カチローちゃんペアは、
小さなチロルチョコ1つしかもらえなかった。
対する私達がゲットしたのは山盛りのお菓子詰め合わせ。
それを見た瞬間、ものすごい勢いでうらやましがってた桃ちゃんが何だか可愛かった。
「よし、ではこのお菓子を皆に分け与えよう。」
「いぇーい!さん太っ腹!」
「越前のも分けてくれよ!」
「…ヤダ。」
既に1人でサクサクとお菓子を頬張るお師匠様。
ブーブーとそれに文句を言うホリー達。
微笑ましすぎる光景に、どんどん心が浄化されていくのを感じていると
ポケットの中が少し震えた。
From:幸村君
Sub:(無題)
--------------------
着いたよ。
金券売り場で待ってるね。
「…えっ、もう11時…!?」
「ん?どうしたんスか?」
携帯に表示された時刻を見ると既に10:50
…いつの間にかそんな時間だったんだ…。
結局自分のクラスまで案内することが出来なかった。
「ごめん、皆。時間きちゃった。」
「あ、そうなんですね。案内して下さってありがとうございました!」
「めちゃくちゃ楽しかったッス!」
「私のクラスまで案内できなくてゴメン、でもこの後行ってみて!」
「…ふーん、いるの?」
「あ、えっと、私は今日は店に出ないの!ゴメンね、でも必ず15時ぐらいまでには行った方がいいよ!」
「15時…ですか?」
「そう!混むから、超混むから!それ以降はもう入れない!」
必死に誘導してみるものの、桃ちゃんやホリーは私があげたお菓子の袋に夢中で
お師匠様はうまい棒をぽりぽり食べてるし…聞いてるのか、聞いてないのか…。
でも、とても大事なことなので何度も念押ししてその場を離れた。
「じゃあね、みんな!今日は来てくれてありがとう!楽しんでね!」
「はーい!ありがとうございましたー!」
「行っちゃったな、先輩。あ、越前そのきなこ棒くれよ。」
「ヤダ。」
「…越前はいいよなー、さんとペアでお菓子までもらっちゃってさ。」
「も、桃ちゃん先輩、俺とのペアは嫌だったんですか…?」
「そういうことじゃねぇよ、でも俺もあんな風にこう…ニシシ、顔にガッと抱き付かれてみたかったなー。」
「っ、桃ちゃん先輩!あ、あれはアクシデントで…!ね!?リョーマ君?」
「…………。」
「な、柔らかかった?どうだった?」
「………まぁ、悪くはなかったッス。」
「リョ、リョーマ君!」
「1人だけ良い思いしやがってー、こいつー!」