「さぁ、お次はエントリーナンバー16番!2-A【たこ助】の看板娘!小井川さんでーす!」
「しっかし、氷帝の女子って可愛い奴ばっかだなー。」
「…この中にが出てくるんは、中々酷じゃの。」
「ちょっと楽しみだけどな。」
隣に座る仁王先輩達が舞台を見ながら楽しそうに話している。
今、舞台に立ってる小井川という女子も、中々に可愛い。
でも、俺は早くさんが会場を笑いの渦に巻き込むところを見たくてウズウズしていた。
想像しただけで、ちょっと笑いそうだ。
学園祭だからってのもあるかもしれないけど、
氷帝は本当に華やかだ。女子もレベルが高いし、学園内はとにかく広い。
こんな学校だったら楽しいだろうなーってのが第一印象だ。
「さん、まだかな?」
「本当ッスよね。マジ楽しみッス!」
「…意外に、緊張してたりして。」
仁王先輩達とは反対側の隣に座っている幸村部長は、
次から次へと出てくる女子に、静かな拍手を送っていた。
「…でも、マジでレベル高いッスねー!さんどういうテンションで出てくるんでしょうね。」
「うーん…。」
「ん?何スか?」
「いや、もしさんがゴリラの着ぐるみをかぶって出てきたとして…
それでもやっぱり可愛いんじゃないかな、って思ってね。」
部長はサラっとこういうことを言えてしまうのがズルイと思う。
それに、俺が同じセリフをさんに言ったとしても笑って流されるだろうけど
部長が言うだけで、さんは顔を真っ赤にして慌てふためくんだろう。
……ムカつくこと考えるのやめよ。
また次の女子が舞台袖へと帰っていく。
俺もパチパチとやる気のない拍手をしながら、司会の次の言葉を待つ。
……次こそさんか?
「さて…次は、なんと昨日の学園祭1日目で最優秀クラスの栄冠をもぎ取った大大大注目の3-Eが登場だ!
エントリーナンバー24番、 !」
「うわあああ!さんだ!さんッスよ、次!」
待ちに待った名前が呼ばれたことで、ついテンションがあがる。
ジャッカル先輩の肩をバシバシと叩くと苦笑いで「落ち着け」と言われた。
なんとなく、いつも身近にいるはずのさんが
こんな大勢の前で、ステージに上るなんて、見たことない光景すぎて
本人でもないのに俺まで心臓が少しドキドキしていた。
「おっし、俺写真撮ろーっと。」
「ブン太、そんなに立つと後ろの人が見えなくなるだろ。」
「おっと、確かに。」
ジャッカル先輩に促される丸井先輩を見て、
俺も上げかけていた腰を下ろす。……あーーー、でももっと近くで見たい!
ポケットから携帯を取り出し、カメラを起動すると同時に
ドキっとするような爆音が鳴り響いた。
「ぎゃはは!プロレスラーの入場かよ!」
「入場曲の選曲が既にネタ扱いぜよ。」
入場曲から既に面白いさんに自然と笑いがこぼれる。
ゲラゲラと笑いながら携帯をかまえる俺達。
でも、次の瞬間
目の前に現れたのは想像と全く違うさんだった。
いや……え、アレ、さんか?
「…おお、なんだ普通にアリスだ。」
「なんだよ、つまんねーの。でも結構可愛いじゃん。」
「…馬子にも衣装じゃの。」
仁王先輩たちは普通に笑ってるけど…
いや……いやいやいや、なんでそんな普通でいられるんスか…
「……マジで、さん…?」
「どっからどうみてもあの山賊だろぃ。」
「…っ……ヤバイ、可愛い。」
「おーおー、顔真っ赤にしとる。」
からかう仁王先輩達の声もほとんど聞こえない。
写真を撮るのも忘れてぼーっと、ステージ上のさんを見てしまう。
……なんだよ、アレ…。普通に可愛いじゃん…。
パシャッ
その時、隣から軽快なシャッター音が聞こえた。
見ると、普通に立ち上がってさんの写真を撮っているであろう幸村部長。
「ちょ、立ったらダメッスよ、部長!」
「……赤也。」
「な、何スか?」
「…今すぐここにいる全員の視覚を奪えるといいのにね。」
なんか怖いこと言ってる
ステージ上のさんから目線ははずさずに、
苦々しい表情を崩さない幸村部長。本当にこの人何考えてるかわかんねぇ。
「って…てか、さんめちゃくちゃ可愛いッスよね!」
「………そうだね。」
「あれ?あんまりッスか?」
「いや……もちろん可愛いよ。だけど、衣装がいただけない。」
何で部長は睨むような視線で舞台上を見つめているのだろう。
首をかしげる俺に、向き直った部長が真顔で言う。
「あんなに足を露出して…きっとさんも、俺以外の奴に見られたくないんじゃないかな。」
「あー…そ、そッスねー…!」
どこまで本気なのかわからない部長の発言がもうわからない。怖い。
これ以上部長に話を振ると、何となくよくない未来が想像できたので
ステージ上のさんに集中しようと前をみると、
いつの間にかさんは握力計を握りしめていた。
女子とは思えない記録に会場が沸く。
俺達が爆笑する。
ステージ上のさんは恥ずかしそうにモジモジしてる。
……普段なら絶対思わないはずなのに、その姿が異常に可愛く見える。
思わず、忘れかけていた携帯のカメラを構えると
一瞬で画面が真っ暗になった。
「あれ?なんで……って、部長!手!どけてくださいよ!」
「赤也……さんの写真撮って…何する気?」
「べっ、別に何もしないッスよ!可愛いから撮るだけ!」
「信用できないな…。」
「なっ…部長もさっき撮ってたじゃないッスか!」
「俺はいいんだよ。」
ニッコリと綺麗な顔を向けられると、いつもの癖で一瞬怯む。
いや…いや、だけど今は違う!絶対部長がおかしい!
おかしい!けど強く言うのは怖いので、隣にいるジャッカル先輩に涙目で訴える。
ジャッカル先輩も仁王先輩も、俺の事を可哀想なものでも見るような目で見てる。
「……助けて下さいよ!」
「あー…まぁ、幸村。いいじゃねぇか、写真ぐらいさ。」
「…そうじゃ。赤也には必要なんじゃろ。その写真で、夜な夜な励むつも「何いきなり下ネタぶっこんでんスか!」
「…………赤也、最低だね。」
「違いますって!あー、もう!シャッターチャンス逃した!」
いつの間にか、こっちに手を振って去っていくさん。
……結局写真撮れなかった。
もうシャッターチャンスは取り戻せないのかと思うと…悔しい。
さすがにイライラして、幸村部長を睨んだ。
「……仕方ないな。俺が撮ったのを送ってあげるよ。」
「マジッスか!?え、あざっす!」
幸村部長のまさかの提案に、飛び上がって喜んでしまった。
…元はといえば幸村部長の所為なのに、単純な俺はそんなことすっかり忘れてた。
携帯を弄る幸村部長の横顔を見つめながら、
意外に優しいところもあるじゃん、と思う。
…さんのことになると、途端にガキっぽいというか
理不尽すぎることをいつも言い始めるのに…。
色々考えていると、手元で携帯が震える。
「きたっ!」
表示される「幸村部長」の文字。
急いでメールを開くと、
「特別だよ」の文字と共に添付された写真。
数秒間読み込んで、表示されたのは
凛々しい表情で空を見上げる真田副部長の写真。
「あはは、引っかかった。」
楽しそうに笑う部長に殴りかかろうとする俺を
ジャッカル先輩が必死に止めていた。
………絶っっっっ対許さねぇ!!
「お、落ち着け赤也!」
「……っ!もういい!俺、さんのクラスに行く!」
「来るなって言ってただろぃ?」
「知らないッスよ!とにかく会って、絶対に部長より良い写真撮る!!」
さんは来ないでって言ってたけど…
この場合は仕方ないと思う。さんもきっと許してくれる。それにもう1回近くで見たい。
隣で涼しげに微笑む幸村部長を見て、フツフツと怒りの炎が燃え上がる。
……さんの超可愛い写真撮っても、絶対あげねぇからな!!
Extra Story No.5