氷帝カンタータ





番外編 02-GO!GO!HYOTEI!!









「よし、集まったな。」


ついにハロウィン当日。
部活後に再集合したテニス部メンバー達は、跡部のリムジンの中にいた。


脚を組んでご満悦な表情でどどんと座っている跡部は
宣言通りばっちりバズの衣装に身を包んでいた。
いつもの跡部からは想像もつかない気の抜けた姿に思わず笑いそうになってしまう。
だけど本人はいたって真面目なので笑うに笑えないんだよね…。


そして、がっくんと宍戸も少し旬が過ぎた芸人衣装に身を包んで
念入りにネタ合わせをしていた。ハロウィンパーティーに何をしに行くんだろうか。
ジロちゃんは何故か季節はずれなトナカイの着ぐるみに身を包んでいる。
アレ、前に家でパジャマに使ってるって言ってたよね…。

跡部の隣でバズの腕をまじまじと見ているハギーは、私が選んだアリスのマッドハッターの衣装。
…やっぱりカッコイイ…!ポップな衣装も軽々と着こなしてしまうハギーはきっと立海でも人気者に違いない。

1番このパーティーを嫌がっていたぴよちゃんさまはというと、
樺地とちょたとお揃いでハリーポッターの制服をチョイスしていた。可愛すぎる。
3人ともハリーの丸眼鏡が超似合ってる。エクスペクト・パトローナム。

それに比べて忍足のこの無難さはなんだ。
関西人だというのに何のひねりもないバンパイア衣装。
やたらと衣装に金がかかってる感じがまたキツイ。
あとさっきからやたら「やっぱり牙も付けてきたほうが良かったやろか…」って聞いてくるのも面倒くさい。どっちでもいいわ。




「……あのさぁ、。」

「ん?何、がっくん。」

「…その衣装、何だよ。」


がっくんと宍戸がハァと大きなため息をつく。
それをきっかけに車内にいた皆が私の衣装に注目した。


「何って……小悪魔ですけど…。」

「なーんかその衣装見たことあるんだよね…。」

「ハギーよく知ってるね!これはね、橋○環奈ちゃんがハロウィンで着てた衣装に似せてるんだって!」



赤い角に黒いマント、ちょっと歩きにくい黒い編み上げブーツ、
そして小悪魔に必須の三又の槍。
黒と紫を基調としたビスチェ型のドレスは
ふわふわとしたチュールスカートに、
いつもより少し広めに空いた胸元。可愛いフリルとリボンが結構気に入ってるんだよね。

真子ちゃんや瑠璃ちゃんと一緒に選んだ渾身の可愛い衣装だ。

でも目の前の皆は私が想像していたリアクションをとってくれる訳でもなく、
むしろ私が衣装の説明をした途端に眉間に皺を寄せ、頭を抱え始めた。
あちこちから小さい舌打ちも聞こえる。


間違いなくお前が1番痛いぞ。」

「わ、わかってるよ!確かに環奈ちゃんと同じ衣装なんておこがましいと思ってるけど…」

先輩、勇気ありますね…。」

「ちょたそれはつまり遠まわしにディスってるよね?

「い、いえそういうことじゃなくて…か、可愛いと思います!」


思わず口をついて出た言葉を取り繕うようにぎこちなく笑うちょたに心がグサリと傷つく。
そして周囲から自然と「環奈ちゃんに謝れコール」が響き渡る、いやさすがに泣くぞ。


「な、なんかそんな風に言われると急に恥ずかしくなってきた…。」

「だろ?最悪パーティー中に後ろから鈍器で殴られるかもしれねぇぞ、環奈ファンに。」

「そんな哀しい結末ある?ど、どうしよう…今更衣装変えられないし…。」

「安心しろ!そんなこともあろうかと思って…ホラ!これ!」


意気揚々とがっくんが取り出したのはリアルな鹿のマスクだった。
宍戸がつけている馬のマスクとお揃いだ。


「これ頭からかぶっとけよ、その方がまだ可愛いぞ。

「ねぇ、楽しいパーティー前にこれ以上自尊心めった刺しにするの勘弁してもらっていい?」

「…動物の頭に人間の身体っていうのが気味悪くてハロウィンらしいと思います。」

「日吉の言う通りや。環奈ちゃんコスプレは千年後の来世にとっとき。」

「……そのマントで全身も隠しておいた方がいいだろ。」

「だな、チラチラ女アピールされてるのが微妙に腹立つし。




跡部の一言で、背中に羽織るようにかけていたマントをぐるりと全身に巻き付け、
私の頭に無理矢理鹿を装着させる忍足。

その瞬間周りから「お〜」という歓声と拍手が起こった。
ハギーに写真を撮ってもらって見せてもらうと、
私が一生懸命この日の為に考えた可愛い小悪魔姿は
鹿のマスクに黒マントで槍を持ったガチモンのヤバイ系変質者に大変身していた。

なるほど確かによりハロウィンらしい気持ち悪さが出ている。
これでコンビニに入ったら間違いなく通報されるレベルだ。

同時に私の思い描いていた立海の皆と過ごすトキメキ★ハロウィン計画は幕を閉じた。





























「あれー…?さん達、校門前にいるって言ってたんだけどなぁ…。」


立海の校門前は既に人で溢れ返っていた。
渾身の仮装に身を包んだ生徒たちがわいわいと騒いでいるその中に、
きょろきょろと辺りを見回すとんがり帽子の魔女っ娘がいる。


「里香ちゃん!遅くなってごめんね!」

「あ!さ…きゃあああああああああ!」

「わっ!ご、ごめん大丈夫!?だよ!」

「……ほ、本当ですか…?」


私の方を振り返った途端、悲鳴と共に腰を抜かした里香ちゃん。
急いでマスクを取ると、一瞬間が空いてキラキラと目を輝かせ始めた。


「さすがさんです!仮装もキレキレですね…私、自分が普通すぎて恥ずかしくなってきます…。」

「何言うてんの、里香ちゃん。その魔女っ娘衣装めっちゃよう似合ってるわ。」

「だな、どっかの小悪魔もどきとは大違いだぜ。」

「忍足さん、向日さん!わぁ、お2人もばっちり仮装してきてくださったんですね!」


わらわらと里香ちゃんの周りに集まって、仮装をほめたたえる忍足達に
奥歯から血が出るかと思う程ギリリと歯を食いしばった。

っくそ…なんだその対応の差は…!確かに可愛いよ、そりゃ可愛いに決まってる。
私だって…私だって可愛い仮装したかった!!



でも、冷静に考えると私の衣装と里香ちゃんの衣装はちょっと似てる。
……一緒に歩くとなると嫌でも比べられてしまう。
里香ちゃんはキラキラと輝く美しい花。
一方私は、跡部に「見てると目にツンとくる」とまで言わしめた刺激物だ。

大きく深呼吸をして、私は静かに鹿のマスクをかぶりなおした。
隣にいたハギーが「賢明な判断だよ」と褒めてくれたことにうっかり喜んでしまいそうになった。


「あれ?そういえば跡部さんは…」

「アーン?ここだ。」

「…………っ!!」



氷帝の目立ちたがり屋代表、跡部の姿を探して人混みの中を見渡す里香ちゃん。
実はすぐ横に跡部がいるのに、さすがにあの面白すぎる衣装を着ているのが
跡部だとは思わなかったのか、声がした方を見て絶句する里香ちゃん。

…跡部はすごいな。

自分が選んだ衣装を信念を持って貫いてるんだもんな…。
目にうっすら涙をためて笑いを堪える里香ちゃんを前にしても、
ドヤ顔で腰に手を当てて立ってるんだもんな。カッコイイよ、あんた…。


「お!来たな、氷帝……って……マ、マジかよ…。」

「あ、跡部さん!?え……いや…や、ヤバイっすよ仁王先輩!」

「ほー、こりゃ気合入っとるのぉ。」


そこに現れたのは、可愛い狼男や海賊に扮した立海メンバー達。
すぐさま鞄から取り出した写真でパシャパシャと撮影する。とんでもない。とんでもない可愛さだ、皆…!

しかし、人混みで撮影する私にも気づかず
ヒソヒソと円陣を組む丸井君と切原氏。
なんか「これ完全に負けてるだろぃ、俺ら…」とか聞こえた気がする。


混み合ってきた校門前でも、明らかに目立っている私達の一団。
中でもさっきからウイングとかヘルメットをカシャカシャと得意気に動かしている跡部の周りには
カメラを持った仮装っ子達が続々と集まってきている。
一緒に写真を撮ったり、ポーズを決めたり、跡部はとっても嬉しそうだ。

それを見て悔しそうにしている丸井君と切原氏。
仁王君と柳生君に渾身のネタ見せをする宍戸とがっくん。
周りから手拍子と歓声が上がっている。
後輩トリオやハギーにジロちゃん、気づけば皆色んな人に囲まれている。


マスクのせいでよく前が見えないけど、取り敢えず里香ちゃんと模擬店とか行こうと
辺りを見回していると、キュっと手を握られた。



「あ…里香ちゃ……ん?あれ?」

「やっぱりさんだ、トリックオアトリート。」










03 - トキメキ★ハロウィン