氷帝カンタータ





番外編 03-トキメキ★ハロウィン










振り向くと、大きなカマを持った黒装束の死神がいた。
暗いマスクの中から見てもわかる。黒い装束に身を包んでいても隠し切れないキラキラの光。
人を浄化出来そうな程の輝く笑顔、こんな芸当幸村君意外に出来るはずない。


「幸村君!ト、トリックオアトリート!」

「あれ?お菓子くれないの?はい、これクッキー。」

「え!仮装してる側もお菓子配るんだ?ゴメン、持ってきてない…。」

「…ハロウィンなのに無防備だね、それだと悪戯され放題だよ。」


グッと私の手を引き、耳元で囁く幸村君にカっと顔が熱くなる。
ひ、ひえー…やっぱり幸村君は何しても無自覚にカッコイイな…。


「…って、ていうか幸村君よく私ってわかったね!?」

「目立ってたからね。そんなマスク被っちゃうのはさんしかいないと思って。」


クスクスと笑われると、段々恥ずかしくなってくる。
あ、でもこのマスク被ってると顔色を読み取られないから楽かも…。
思わぬマスクのメリットに感謝し始めたその時、急に視界が開けた。


「……あれ…」

「…鹿もハロウィンっぽくていいけど、取った方が可愛いよ。」


クリアな視界に飛び込んできた幸村君の優しい笑顔。
マスクを取って涼しくなったはずなのに、汗が止まらない。


「…そ、そうかな…?皆にはマスクの方が良いって言われたけど…」

「そう?俺はこっちの方が好きだけど。」


矢継ぎ早に繰り出される聞き心地の良い単語に、心臓がどきどきと高鳴る。
可愛い……好き……ッウ……私が…私が思い描いていたハロウィンはコレだよ…!
なんとか自分に言い聞かせてきたけど、もう我慢できない…

私だって……


「私だって可愛い格好してみたかっブフォッ!!」

「危ないですよ、先輩。誰かに鈍器で殴られたらどうするんですか。」

「……やぁ、日吉。」

「どうも。」


…さっきの幸村君は一瞬の幻だったのだろうか…。

勢いよく私の頭にかぶせられたマスク。外で聞こえる声はぴよちゃんさまだ。
辺りを見回すと、たぶん氷帝メンバーらしき人が見える。


「よぉ、幸村。お前のは死神か?中々似合ってるじゃねぇの。」

「フフ、びっくりしたよ跡部。まさか君がそんな面白い格好で来るなんてね。」

「面白い?カッコイイの間違いだろうが。」


そう言ってピッと胸のボタンを押し、カシャンッとヘルメットをかぶる跡部に、
幸村君以外の全員が噴き出した。ダメだ…やっぱり今日の跡部は面白すぎる…。




気付けば人混みにじわじわと流されて、私達は中庭らしきところまで来ていた。
そろそろ模擬店とか見てみたいなぁ、と思っていると後ろからポンと肩を叩かれる。


「…もしかしてさん!?」

「切原氏!実はさっきからいたよ、その狼男の衣装めちゃくちゃ可愛いね!」

「……ま、マジでさんスよね?」

「ぷはっ!……このマスクで封印されてるんだ…今日はね…。」


マスクを取ると、やっと信じてくれたのか切原氏が満開の笑顔でハイタッチしてくれる。
な、なんか皆心なしかテンション高くて楽しいな…!
校内に大音量で流れてるハロウィンっぽい音楽も、気分をアげてくれる。


か、久しぶりだな。」

「あ!弦一郎さんに柳君!わぁ、2人はそれ…弁慶と牛若丸だよね!?」

「あぁ、去年と同じだがな。」

「2人とも似合ってるよー、写真撮って良い?」


少し恥ずかしそうに顔をこわばらせる弦一郎さんに、
洋風なお祭りの中で一際雅な雰囲気を醸し出す柳君。
わー、こういうコスプレもありだなぁ…。面白い!
夢中で写真を撮っていると、切原氏がマジマジと私を見て口を開いた。


「っていうかさん、なんでそんな変なマスクつけてんスか。」

「……これには哀しい流れがあったから出来れば触れてほしくない。」

「角をつけているということは…最初は何か別の仮装をしていたのか?」


鋭い柳君にドキッとする。
全身に巻き付けた黒いマントに注目が集まると、
不思議と恥ずかしさが増してきた。

…あいつらに散々ボロクソ言われる前は結構いつもよりいい感じじゃない?
とか思って堂々と全身鏡の前に立ってたのに…っく…。


「見せて下さいよー!気になる!」

「い、いや…これ取ると最悪、不愉快に思った見知らぬ人に命狙われるかもしれないから…。」

「あはは!こんなにいっぱい人がいんのに、別にさんに注目しないッスよ!」


朗らかな笑顔で言い放った切原氏の言葉に、ガンっと頭を殴られたようだった。


……そ、そうだよね…見渡す限り、同じような衣装着た魔女や小悪魔なんてたくさんいる。
そんな中で逆に無理に隠してる方がちょっと自意識過剰なんじゃないか…?
皆パーティーを楽しみに来てるんだから…一人ぐらい
環奈ちゃんを一旦焼却炉に放り込んで取り出したみたいな仮装の人がいても大丈夫だよね…?



「…それもそうだよね!切原氏ありがとう、勇気が出たよ!」

「そうッスよ〜、ハロウィンなんスからね!」

「自分がしたい格好をすればいいだろう。」


腕を組んで励ましてくれる弦一郎さんや切原氏に、涙が出そうになる。

やっと……やっと今から私のハロウィンが開幕するんだね…!

身を隠していたマントをバサッと取り去ると、少し肌寒かった。


「おおー!!めっちゃ可愛いじゃないスか!写真撮りましょ一緒に!」

「え、えへへそうかな?ありがとう!これはね、一応小悪魔をイメージして「けしからん!」


辺りに響き渡る様な声で叫んだのは弁慶だった。
思わず反射的にマスクをかぶりなおしてしまった。

そ、そんな叫ぶ程キツかったのか…。


「…そうじゃない、マントをつけろ。」

「あー、真田副部長ダメっすよ。ハロウィンの仮装をエロい目で見るのは…いでっ!

「…周りの女子達と比べて取り立てて露出が激しすぎる訳でもない、このぐらいは許容範囲内だろう。」

「そうは思わんがな。」

「も、申し訳ございません…。」


マスクの外で繰り広げられる議論に思わず謝ると、
弦一郎さんにやたらと重々しい声で「それがお前のしたかった仮装なのか」と問われた。
取り敢えず、色々と怖かったけど黒マントに鹿マスクという不審者系衣装よりはましだと思ったので
「そうです」と答えると、渋々小悪魔仮装の許可が下りた。


「よし!さん、一緒に模擬店回りましょうよ!」

「うん!あ、里香ちゃんはどこに行ったのかな…」

「いいじゃん、2人で抜けちゃいましょ。」


口に人差し指を当ててパチンとウインクをする切原氏に、
簡単に胸がときめく。何この可愛い狼男……。

思わずフラフラとついていってしまいそうになると、
反対側の腕が千切れるかと思う程の勢いで引っ張られた。



「いでぇっ!!」

「…赤也、今もしかしてさんを連れていこうとしてた?」

「げ…、い、いやしてないッスよ!ほら、皆と合流しようとしてー…」

「ごめんね、さん。痛かった?」

「だ、大丈夫です!あ、幸村君。里香ちゃん見なかった?」

「里香なら模擬店の店番で少しの間抜けてるよ。」

「あ、そうなんだ…。じゃあ里香ちゃんの模擬店に行ってみようかな。」


気付けば氷帝のメンバーも見失ってしまった。
これだけ人が多いと仕方ないか…。
まぁ、いざとなったら携帯で連絡も取れるし自由行動でいいよね。
とにかく今は、タイミングを逃して写真に収められていない里香ちゃんを見つけたい。


「案内するよ、さん。」

「うん!ありがと…う……。」

「さ、行こうか。」


スっと自然に手を繋ぐ幸村君。
慣れていない私はすぐに意識して顔が赤くなってしまう。

なんか…なんかドキドキする…夜だから?ハロウィンだから?


「あ!待って、さん!俺も!」


ギュっともう片方の手を握った切原氏。
この…この状態は…まさに両手に花…。

笑顔で睨み合う2人にずるずると引きずられながら
私は心の中で「マジで生きてて良かった」と神に感謝するのだった。




























「2年D組、切原君。速やかに担当の模擬店へ戻ってください。繰り返します…」


幸村君と切原氏に案内してもらい、
無事里香ちゃんの模擬店までたどり着くことが出来た。

里香ちゃんの模擬店では可愛いマカロンを配っていて
「トリックオアトリート!」と声をかけると無料で1つもらえるらしい。
こんなに美味しいマカロンを、こんな可愛い魔女っ子からもらえるなんて
立海のハロウィンパーティーはレベル高いなぁ…なんて思っていると
聞き覚えのある名前が放送で流れた。


「あれ?今、切原氏の名前…。」

「赤也、店番の時間過ぎてるんじゃない?」

「へ?…うわ、マジかよ…最悪!」

「切原氏の模擬店は何を配ってるの?」

「なんだっけな…ジンジャークッキーとかなんとか…そうだ!さんも一緒に来て下さいよ!」

「うん、行ってみたいな!ジンジャー味好きだし。」

「よっしゃ!んじゃ行きましょ!」





しばらく3人で歩くと、切原氏のクラスの模擬店が見えてきた。
受付に立っていた女の子が切原氏を見つけた途端、ずんずんと歩いてきて
その腕を掴んで連行してしまった。……相当サボってたんだな…。


「はい!さん、言って下さい!」

「あ、うん!トリックオアトリート!」

「いぇーい!」

「い、イェーイ!」


パチンとハイタッチをすると、可愛い袋に入ったジンジャークッキーを貰えた。
同じように幸村君がトリックオアトリートと隣にいた店番の女の子に伝えると
フっと意識が無くなったように女の子は倒れ込んでしまった。
と…とんでもない破壊力…。


「んじゃ、次行きましょっか!」

「待ってよ切原君!店番まだまだ終わらないよ!」

「はー?俺はさんと…」

「赤也、遊びに行きたいのはクラスの皆も同じだよ。店番サボるのはいけないな。」


やんちゃな切原氏がクラスの女の子にたてつこうとした瞬間、
死神のカマを持った幸村君が静かに切原氏を叱りつけた。
これにはさすがに切原氏も逆らえなかったのか、口を尖らせたまま
ドサっと店番の椅子に座って「わかりましたよ!」と叫ぶことしか出来なかったようだ。









「そういえば幸村君は店番ないの?」

「模擬店は1・2年生だけなんだ。去年はトマトジュース屋さんをしてたよ。」

「へー!ハロウィンっぽいね。去年はなんの仮装してたの?」

「バンパイアだよ、さっき忍足が着てたみたいな。」

「え…見たかった……私ね、実は幸村君はバンパイアが似合うんじゃないかって思ってたんだ!」

「フフ、俺は今年のコレの方が気に入ってるんだけどね。」

「確かにこれだけシンプルな衣装でここまでカッコイイって異常だもんね!さすが幸村君だなぁ…。」


幸村君と一緒にフラフラと歩いていると、いつの間にか人混みから抜け出していた。
辺りはすっかり暗くなって空には星が見えている。

どこかへ向かっている様子の幸村君がピタッと立ち止まったと思うと、
その場にしゃがみ込んだので、同じようにしゃがんでみるとそこは花壇だった。


「これ、俺が手入れしてる花壇なんだ。」

「そうなの!?へぇー…すごく綺麗にしてあるんだね!」

「美化委員の仕事の1つなんだけど…結構楽しいんだ、毎日見てると。」

「お花見てると癒されるよねー…ちょっと歩き疲れてたけど体力回復してきた気がする。」

「あ…ごめんね、こんなところまで歩かせて…。」

「ううん、違うの!普段なら余裕で歩けるんだけど…この衣装のブーツがちょっと歩き辛くてさ。」


高めのヒールだから歩きなれないのかもしれない。
一度立ち上がり思いっきり屈伸をすると、少し痛みが和らいだ。
よし!人も少ないし、お花は綺麗だし、静かだし…段々と回復してきた!

もう一度しゃがみ込んで暗いけど、折角だし幸村君の花壇を写真に収めようとすると
隣にいた幸村君がポカンと口を開けて私の顔を見つめていた。


「どうかした?」

「………あ、ううん。何でもないんだ、ごめん。」


そう言って顔を伏せる幸村君。
な…なんか明らかに違和感がある…。


「そ…そう?」

「……さんは…」

「ん?」

「……あんまりそういう服…着ない方がいいかもね。」


顔を伏せたままぽつりとつぶやいた幸村君。
その言葉にズガンと頭をぶち殴られたような気がした。

…い、今頃になってじわじわキたのかな…?
目にツンときてしまったのかな…?


「ご、ごめん!見苦しいよね!」

「そうじゃなくて……その…。」

「いいんだよ、幸村君…!むしろありがとう、ひと時の夢を見させてくれて…!」


慌ててマントで身を隠そうとすると、パシっとその手を止められた。


「…あの…怒らないで聞いてくれる?」

「え……お、怒らないよ!本当に大丈夫だから、幸村君が想像も出来ないような酷い暴言・罵声を浴び続けてきた私はちょっとやそっとじゃ怒らないよ!」

「……その、いきなり立ち上がるから…。」

「え…?」

「……ゴメン…見えたんだ、下着が。」


こちらは見ないまま顔を伏せて小さな声で呟いた幸村君。





した……下着が……

先程の自分の行動を脳内で振り返る。
隣でしゃがんでいた幸村君。
その隣で普段より高いヒールで勢いよく立ちあがり
挙句の果てに元気に屈伸までしていた自分。

………。


「も……申し訳ございませんでした!!

「ちょっ…何してるのさん…。」

「折角汚れ無き美しい幸村君の花壇を見せていただいているというのに、
 この世の汚れという汚れを寄せ集めたみたいな私のパ……パンツなんかを
 幸村君の目に映してしまったことが情けなくて!申し訳なくて!!」


思わず勢いで土下座してしまった。いや、こうするしかないだろう。
幸村君にすこぶる不愉快な思いをさせてしまったんだ、こんなんで償えるレベルじゃない…!


「わかった、もう大丈夫だから。」

「本当に…申し訳ございません…。」

「あの、もう開き直って言うけどその体勢も結構危ないんだ。」

「へ…」


幸村君の言葉に顔を上げると、困ったように微笑む幸村君。
そして、そのままスッと目線が下がった。


「……もしかしてワザと?」

「……っ…ご、ごめん!」


その視線の先に気付いた私は、慌てて胸元を隠したまま後退する。
さ…最低だ…1度ならず2度までも幸村君の汚れ無き目に致命傷を与えてしまうなんて…


「ち、違うの!全然ワザととかじゃなくて…ごめんなさい!!」

「…うん、わかってる。こっちこそ変な事言ってごめんね。」


申し訳ない…申し訳なさ過ぎる…なんだこのぎこちない空気…。

そりゃそうだよ、楽しいハロウィンの夜にいきなり化け物より怖いもん見せられたらそうなるよ…
持っていたマントとマスクを静かに再着用しようとすると、
立ち上がった幸村君が笑いながら言った。


「…氷帝の皆がそのマスクとマント強要したのも、こういうことだったりして。」

「こういうこと…とは…」

「見られたくなかったんじゃない?あまりにもさんが無防備だったから。」

「それだけは絶対に違うと言い切れるよ…あいつらの顔は明らかに"身の程を知れ豚野郎"とでも言いたげだったもん…。」

「そう?案外当たってると思うけどね。」

「……でも、ちょっとびっくりした。」

「ん?何が?」


傍にあったベンチに立てかけてあった死神の鎌を持ち上げる幸村君。
その後ろで私は恥ずかしさに耐え切れずぐるりとマントを巻き付けた。


「……幸村君みたいな人でも、その、困ったりするんだと思って。」

「……?」

「いや違うな…というか…感動したのかもしれない!」

「…よくわからない…。」

「たぶんだけど、氷帝の奴らがさっきの幸村君みたいに私の失態を見たとしても…
 おそらく殴られるか、説教されるか、ため息つかれるかだと思うんだ。」

「………。」

「でも幸村君は、ちゃんと女子として見て反応してくれたというか…それが…言ってて悲しいけどそれが新鮮で嬉しかったのかもしれない!」

「…………。」

「……申し訳ございません、人に不愉快な思いをさせておきながら嬉しいとか…」

さん。」



幸村君が持っていた鎌でグイっと身体を引っ張られる。

勢いで密着してしまいそうな程の至近距離に思わずのけ反ると
それを阻止するように幸村君の顔がグっと近づいた。
パサリと巻き付けたはずのマントが地面に落ちる。



「ちょ、ちょちょちょ……」

「…その余裕の発言、ちょっと傷つくな。」

「え!?ご、ごめんなんか変な事言った?」

「……さんこそ、俺の事……男として見てくれてるの?」







さっきとは違って全然笑ってない幸村君の表情に
心臓の鼓動がどんどん早くなる。


え、え、え?


目の前で起きている非常事態に頭がいっぱいで
幸村君の言っていることが正しく理解できない。
どんどん熱くなる身体はいつのまにか幸村君の腕の中にあって、
抱きしめられるような形になっていた。



「あの、幸村君……」

「……さんが悪い。」



こんなに暗くても、お互いの表情がよくわかる距離まで近づいた時、
ふわりといつもの優しい笑顔で微笑んだ幸村君。
その瞬間だった。



















「迷子のお呼び出しを申し上げます。氷帝学園からお越しの、さん。お連れ様がお待ちです、受付までお越しください。繰り返します…」




























「あー!!ちゃんどこ行ってたの、もーう!!」

「ご、ごめん皆!はぐれちゃって…」

「……なんや、幸村とおったんかいな。」

「あぁ、ごめんね。少し疲れたみたいだったからベンチで休憩してたんだ。ね、さん。」

「う、うん!あの、ありがとね!」



恥ずかしすぎる呼び出しを聞いて、全速力で受付まで走ると
そこには可愛いトナカイやホグワーツ生たちが集合していた。

……で、でも正直あのタイミングで助かった。だって……

乙女ゲームの中でも全クリした後のスペシャルストーリーじゃないと体験できないような
甘すぎる出来事を思い出して、また顔が熱くなる。

そんな私とは対照的に涼し気な笑顔の幸村君。
……さ、さすがに経験値が違うなぁ…。



「…、すごい汗。そんなに走ってきたの?」

「……幸村さんと何してたんですか。」


何か探る様な目をしたハギーとぴよちゃんさまに
曖昧な笑顔で返すと、益々怪しまれた。


「あ!っていうかマスクは!?マントもねぇじゃん!」

「…え、あ…ごめんベンチに忘れたかも…!」

「あぁ、そっか。あの時に脱いじゃったんだね。」


ピシリと空気が固まる音がした。


その中で楽しそうに1人笑う幸村君。
全員の視線が私に集まる。



「ご、誤解を招く表現だけどほ、ほら!ただ歩きすぎて暑かっただけだから!」

「……そっか、そういうことにしておいた方が良いかもね。」











、お前何してた。」

「いや、本当違うんです聞いてください。」

「そんなに必死で否定するのも怪しいよねー。」

「……言えないようなことしてたんですか。」

「待って釈明の余地を…」

「じゃあね、さん。楽しかったよ。」



キラキラと輝く笑顔で去って行く幸村君。
残された私の周りで腕を組んで何か言いたげな氷帝の人々。


大きな鎌を背負って意気揚々と暗闇に消えていく死神の背中を見つめていると
じわじわとまた顔に熱が集まってくる。




…さっきの、夢とかじゃないよね。




そんな私を見て皆が口々に罵声を浴びせていたけど、
今はそんなの気にならない程に、頭の中が優しくて美しい死神のことでいっぱいだった。







Happy Halloween !! -2016-



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