青学カンタータ
前篇
「、また俺のタオル盗んだだろ!」
「…いや、盗んでないけど。」
「いや、絶対盗んでる。鞄見せてみろよ!」
「ちょっと!やめてよ、冤罪だよ!」
いつも通りにマネージャー業務を終えて、部室で部誌を書いている時だった。
机の前に仁王立ちで腕を組みながら怒った様子のがっくんが私に堂々と冤罪をふっかけやがった。
私の制止も聞かずに、乙女の通学鞄を無造作に漁り始めるがっくん。信じられない。
「ほら、ないでしょ?謝って。」
「……おかしいな…。絶対のはずなのに…。」
「がっくんだから許してるけど、本来なら最高裁まで争ってやるぐらいの怒りゲージだから今、気を付けてね。」
「岳人、のロッカーは探したんか?」
「お、そうだな。」
「みんなー!今この氷帝学園の片隅で1人のか弱き少女が理不尽な魔女裁判にかけられていますー助けて下さいー。」
忍足の一言で次は私のロッカーを探し始めたがっくん。プライバシーもへったくれもない。
たまらず部室内で着替えてる皆に声をかけてみたものの、相変わらず私のことに一切の興味を示さないメンバー。
もう一度大きな声で叫ぶと、渋々ながらちょたが「どうしたんですか?」と声をかけてくれた。
「ちょた…、聞いてよ。私ががっくんのタオル盗んだって言うんだけど、絶対盗んでないの今日は!」
「…今日は……。」
「実際に鞄にもロッカーにもないのに……ほら、ないでしょ?謝ってよ!がっくんが大嫌いな壁ドンしながら謝ってもらうからね!」
少し離れたロッカーで一生懸命捜索を続けるがっくんに、大きめの声で謝罪を促してみたものの、
今更後に引けないのか、こちらを振り向くこともない。…っふ、まぁ絶対ないんだからいいよ。
サラっと言ってみたけど、がっくんに壁ドンしてもらえるというスペシャルボーナスチケットを
私の心の傷と引き換えに手に入れることができたと思おう。
「……タオル、これじゃないんですか。」
もうすっかり帰り支度をして、テニスバッグを背負ったぴよちゃんさまが
面倒くさそうな顔で指さしたのは、ソファで寝ているジロちゃんだった。
「ぴ…ぴよちゃんさま……それはジロちゃんのことをタオルみたいに薄っぺらい人間だと暗に批判しているという…?そういう下剋上的な…?」
「違います。先輩の下敷きになってるって言ってるんです。」
哀しい顔で絡む私がウザかったのか、ぴよちゃんさまが軽く舌打ちをしながら
ジロちゃんの身体の下からズルリと何かを取り出した。ジロちゃんはソファから落ちた。
「ああ!!それそれー!なんだよ、ジローかよ!」
「さっきからうるせぇな、何の騒ぎだ。」
「岳人のタオルを盗んだ犯人の最有力候補やったが実は冤罪やったって事が今証明されたとこや。」
シャワー室から出てきた跡部が、バスタオルで髪の毛を拭きながらロッカールームへと戻ってきた。
忍足の説明を聞くと、わざとらしく大きなため息をつく。
「……何よ、そのため息。」
「……氷帝テニス部のレベルの低さに呆れてるんだよ。」
「確かに跡部は他校の皆に比べると明らかに精神年齢が5歳ぐらい劣ってるけど、そんなに悩まなくてもさ、私達「てめぇのことを言ってんだよ。」
「はぁ?なんで今この状況で私がそんなこと言われないといけないんですかー。」
「向日もお前も一緒だ。よく毎日毎日くだらねぇことでそれだけ騒げるな。」
ロッカーを開け、制服に着替えながら馬鹿にしたように笑う跡部に
私の抑えていた怒りボルテージがフレッツ光回線よりもギリ早いぐらいの速度で上がっていく。
「私は完全に被害者で巻き込まれてるだけだもん!」
「喧嘩両成敗って言葉を知らねぇのか。」
「喧嘩じゃない、冤罪事件なんだよ!万引きGメンでも誤認逮捕したら誠心誠意謝るよ!」
「じゃ、俺そろそろ帰る「待ちなさい、がっくん!壁ドン謝罪がまだでしょ!」
私が跡部に突っかかってるのをいいことに、しれっと部室から帰ろうとするがっくんを制止しようとしたものの
そのまま逃げようとしたので、私は慌てて走り出す。
逃がすものか!
必死だった私は、部室のドアからすり抜けようとするがっくんめがけて
タックルを決めようとした。
ドア越しにびっくりした顔をするがっくん
部室にいる皆が振り向く程の衝撃音
頭にはしる鈍い痛み
そこで私の記憶は途切れていた。
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