「あ、そろそろ放送部の特番始まる頃じゃない?」
「…そんなもの、去年あったか?」
「今年から新たに企画したらしいよ。今の部長が色々挑戦してみたい人らしくてさ。
クラスメイトの放送部の子が言ってた。」
「ふーん…。」
聞いてるのか聞いていないのか、興味なさそうに相槌をうつ日吉。
俺は結構楽しみにしてるんだけどなぁ…。
俺のクラスは演劇なので、学園祭中の自由時間は結構多い方だ。
対して日吉は喫茶の看板娘。限られた時間しかないけど、
ダメ元で誘ってみたら空き時間に一緒に学園祭をまわってくれることになった。
樺地も誘ってみたけど、残念ながら空いている時間はほとんどないらしい。
クラスの出し物以外にも、手伝わないといけない出し物があるみたい。残念。
…2日目は昨日とはまた違った雰囲気で良いな。
折角だし、思う存分学園祭を楽しもう。
「校内の各モニターでも見れるらしいんだけど…、
中庭の特設ステージにビッグモニターがあるらしいよ。」
「…まさか行くのか?あの人混みに?」
「折角だし行ってみようよ!」
「面倒くさい。」
「そんなこと言わずにさ、今年の学園祭はもう二度と体験できないんだよ?」
「……はぁ…。」
校舎の階段を下り、中庭へと向かう俺を
止めることも無くイヤイヤながらついてくる日吉は
なんだかんだ言って優しいと思う。もうちょっと楽しそうにしてればもっと良いんだけど…。
「うわー、これ満席じゃない?」
「だから言っただろ。どうせ座る場所なんて無いって。」
「……えー、どうしよう…。立ってみるのも大変だし…。」
「もういいだろ、どこかで休むぞ。」
「休むって言ったって……………あっ!」
「っ!…急に大きな声出すな。」
中庭の特設ステージ前は、すっかり人で埋まっている。
座る場所も無さそうだし、どうしようかと考えていた時。
…ちょっとズルイ案が頭に浮かんでしまった。
……いや、でもやっぱりズルイよね…。
そんなことを考えて、中々言い出せずにいると
日吉に「言いたいことがあるなら、さっさと言え」と怒られた。
「……ほら、部室にテレビあるでしょ?」
「…お前にしてはナイスアイデアだ。」
「で、でもさ…なんか自分達の部室を使うって…ずるくないかな?」
「ずるい訳ないだろ、誰にもバレないしな。」
「……うー……うん、でも…そうだね。…いつも部活頑張ってる特権だと…思えばいっか!」
「何でもいいから行くぞ。」
「うん!」
・
・
・
「さぁ!皆様お待たせしました!氷帝ブロードキャスティングクラブ、略してH・B・C・Cがお送りする
学園祭特別番組!"Let's liven up School Festival!"が間もなくスタートします!」
「司会は放送部副部長の末本と!」
「部長の間中がお送りいたします!」
「それでは、今しばらくそのままで!お待ちくださいませー!」
「わー、始まったね。どんな番組なんだろう。」
「…ふぅ。ここは人がいなくて落ち着くな。」
早速、いつも使っている部室へと向かった俺達。
日吉が普段の部活と同じように管理棟に鍵を借りにいくと、特に何事もなく借りることが出来たらしい。
もちろん部室には誰もいなかった。
壁に設置されたテレビの電源を入れて、チャンネルを合わせると
校内に流れている放送を見ることが出来た。
跡部さんの特等席、ソファにででんと座る日吉。
その隣の椅子に俺が座ると同時に、元気な声がテレビから聞こえてきた。
しばらくして、いつも校内放送で使用されているタイトル動画が流れる。
いつもは「H・B・C・Cニュース」と表示されているタイトル部分が
「Let's liven up School Festival」に変わっていた。
「みなさーん!学園祭、楽しんでますかー!」
「はい!ということで、突然始まりましたこの番組ですが…簡単に部長からご説明をお願いいたします!」
「よくぞ聞いてくれました!この番組は部長である私が企画をした"学園祭を100倍盛り上げる番組"です!
今は11時!まだ11時です!今からこの学園祭を楽しむ一般のお客様に、是非氷帝学園の素晴らしさを
お伝えしたいということでこの企画が始まりました。」
「この放送は校内全てのモニターに配信されていますので、中庭特設ステージのビッグモニターはもちろん、
校舎内・屋外併せて50か所からご覧いただくことができます!」
「そこの道行くお母さんお父さん!お姉さんにお兄さん!次にどこ行こうかな?なんて迷った時には
どうぞこの特別番組を覗いてみて下さい。我が学園が誇る、様々な出し物をどんどんご紹介しますよ!」
「もちろん生放送!ですので、情報はフレッシュそのものです!また、学園祭に遊びに来て下さっているお客様や
氷帝学園の生徒等、学園祭を楽しむ人々の生の声もお届けしたいと考えております。」
「そこのあなた!後ろの僕ちゃんも!私達とばったり出会ったら、インタビューしちゃうかもしれませんよー!」
「と!この番組の概要はこんなところですが…うちの放送部部長は普通のインタビュー番組では終わらせません。」
「そうなんです…。今回新たに導入したシステム"学園祭のあっちこっちが丸見え!あなたも放送特派員!"のご説明を、末本君!」
「はい!この長ったらしい名前のシステムですが、簡単に言えば皆さんの呟きがリアルタイムでこの番組内に流れるシステムです。
学園祭を楽しむ皆さんのコメントで、是非番組を盛り上げて下さい!詳細は氷帝学園ホームページの学園祭バナーから!」
「…おっと、最初のコメントが早速届きましたよ!なになに?」
「…今、跡部様とすれ違った!……おおおお!まさに学園祭のあっちこっちが丸見え!この広大な氷帝学園内の動きが
この番組に一斉に集まるということですね!」
「例えばお店の待ち時間が今どのぐらいなのか?…なんてことも呟いていただけるととっても役立ちますよね!」
「わぁ、面白そう。俺もやってみよーっと…。」
「…本当にリアルタイムで流れるのか?」
「…み・て、ますか…っと!よし、送信ー!」
「何て送ったんだよ?」
「ふふ、それは見てからのお楽しみ。…あ!これだ!」
「………宍戸さん見てますか@鳳……。お前…、普通こういうので本名書かないだろ。」
「わー!本当に流れた!すごいね、これ…!」
「今の話聞いてたのか、これはメッセージボードじゃないぞ。」
「えー、じゃあ日吉も何か書いてみてよ。」
「……こういうことを送るんだよ。」
ポチポチと携帯を弄って、顔を上げた日吉。
2人でじっとテレビ画面を見守っていると
色んなメッセージが次々に流れてきた。
「……あ!これじゃない!?浴衣喫茶、今日こそは下剋上@GEKOKUJO……日吉も本名みたいなもんじゃん。」
「ちゃんとしたペンネームだろ。」
「たぶんこれ見てる氷帝学園生徒は全員日吉だってわかると思うけど。」
「さて、部長!こんなところでグズグズしてる暇はないですよ!」
「そうだな、時間は限られている。それでは、私達は少し移動をいたします!
映像は途切れますが、呟きは表示され続けますので、どしどし情報をお待ちしておりまーす!」
画像が、タイトル画像に切り替わった。
軽快な音楽と共に流れるみんなの呟き。
…たくさんあって目で追いきれない程だ。
「まずはどこに中継に行くんだろうねー。」
「さぁな。……俺が店にいる時間じゃなくて良かった。」
「あ、そっか。折角なら日吉が映った方がお客さん集まったかもよ。」
「校内にあんな姿垂れ流されたら最悪だろ。」
「…先輩がどこかで暴れ出しそうだね。」
「……冗談になってない。」
校舎内のどこかで、日吉が映るたびに
いつものようにテンションが振り切ってしまう先輩を想像して、
俺も日吉もちょっと笑った。