「さて、みなさーん!次はこっちこっち!学園祭の中心部、中庭の模擬店スポットですよー!」
「今日も活気にあふれていますねー。」
画面が切り替わって、次に映し出されたのは中庭だった。
日吉が嫌いそうな人混みの中で、所狭しと模擬店のPR隊が動き回っている。
いち早くカメラの存在に気付いたどこかのクラスの宣伝班が、
放送部が話しかけるよりも先にカメラへと近づいてきた。
「さぁ、どうぞどうぞ!放送部のお2人飲んでみて!」
「え、これは…?」
「3-G、Drink Stationの1番人気ドリンク、ベリーミルクスムージーの試飲でーす!」
「はい、末本さんには女性に人気のグリーンスムージーを!」
「ありがとうございます!それでは早速飲んでみますね……っんま!美味しい!」
「うん!果実の甘味がそのまま楽しめるドリンクですね!」
試飲用のドリンクを持って近づいてきた宣伝班の女子2人は
放送部の2人にドリンクを試飲してもらっている間にも、
道行く人々にどんどんオススメをしていた。
少しセクシーで、キャンペーンガールのような格好をした2人。
試飲をした皆がどんどん3-Gの店舗へと向かっていく。
「やっぱり、中庭組って宣伝が上手だよね。」
「……俺も後であそこに宣伝に行かされるらしい。」
「うわ、頑張ってね!俺も宣伝してみたいなぁ。」
「…やればいいだろ、あの白タイツ姿で。」
「あ、また馬鹿にする。クラスの子が一生懸命作ってくれたんだよ。」
俺の舞台上での姿を思い出したのか、日吉が笑った。
別にあの衣装が嫌いって訳じゃないんだけど、
…この人混みの中でアレで歩くのはちょっと恥ずかしいかも。
「この他にも、タピオカドリンクとか用意してますので是非来て下さい!」
「本当、コレ美味しいのでオススメですよー!……あ、早速呟きが届いてますよ。」
"さっき飲んだバナナスムージー最高だった"…ですって!」
「え、嬉しい!コメントありがとうございまーす!」
「さぁ、では次の模擬店へ「模擬店と言えば、やっぱりお好み焼きですよねー?」
「…あ、忍足さんのクラスだ。」
放送部部長のマイクを奪い取り、カメラにどアップで映ったのは忍足さんのクラスの先輩だった。
昨日からよく通る声で、宣伝をしまくっていたからとても印象に残っている。
「おお!早速宣伝に来てくれたんですね!」
「…これ校内に放送されてるんでしょ?特別に、いつもは見れない裏方なんかも見せちゃいますよ!」
「それはいいですね!学園祭の醍醐味は、学生たちが頑張る姿です。
表舞台だけでなく、裏方にこそ青春ドラマがあったりするんですよねー。」
「では、早速潜入してみましょう!3-H、あなたの☆お好みです!」
そう言って、宣伝係についていく撮影班。
既に長蛇の列が出来ている「あなたの☆お好み」は
俺も今日行ってみたいなぁと思ってたところだった。
「ねぇ、日吉。後で行ってみようよ。」
「…いいけど、結構並ぶみたいだな。」
「人気あるんだね。あ、樺地にもお土産に買っておいてあげよ。」
「さぁ、こっちでーす!」
「おお!ここが調理現場ですね!
みなさん、一心不乱に包丁を動かしていらっしゃいますね。」
裏方と言われる場所で、一生懸命頑張る先輩方が画面に映る。
…うわぁ、千切り速いなぁ。
綺麗な模擬店の外側からは見えない部分に、すっかり感心していた。
呟きの方も、意外な裏舞台に盛り上がっているようだ。
「あなたの☆お好みでは、常時6種類以上の「おい、キャベツまだか!」
「あ!あれは、忍足君ではないですか?」
突如カメラに映りこんだのは俺たちの先輩。
しかし、映っていることには気づいていない様子だった。
「すみません!もう少しで出来ます!」
「おい。…おい、そこや鹿松!そのシイタケみじん切りにしといてって言うたやんなぁ?さっき。」
「あー、ごめんごめん。ちょっと彼女から電話かかって「彼女とお好み焼きどっちが大事やねん!」
「っひ!…ご、ごめんって「もうええ、わかった。俺がお前をみじん切りにしたるわ。」
「あ、すいません。ちょっとカメラ止めてもらっていいですか?」
宣伝係の人が慌ててカメラのレンズを手で押さえたのと同時に、
画面が番組タイトル画像に入れ替わった。
「……今の、忍足さんだよね。」
「アレは面倒くさい方の忍足さんだったな。」
「噂には聞いてたけど、あのクラス…スパルタなんだね…。」
「俺は最初に裏方が映った時点でわかったぞ。
千切りしてる男の先輩たちの目、死んでたの見えてたか?」
「そ、そんなに…?あ、中継戻ったみたい。」
「みなさーん、さっきはえらいお見苦しいところ見せてすんません。」
「そっ、それでは気を取り直して…このクラスのリーダーの忍足さんです!」
若干顔が引きつっている放送部部長が、忍足さんを紹介する。
もう裏方を映すのはやめたみたいだ。うん、俺もそれがいいと思う。
中庭の中央でインタビューを受ける忍足さんのまわりには
氷帝の女子生徒や、それ以外の女子達もいっぱいだった。
忍足さんが一言話すたびに黄色い声が響く。
「今、うちのクラス来てくれた女の子には…1枚お好み焼きサービスしたるで。」
「おおお!これは太っ腹!あの人気店のお好み焼きがサービスだそうですよ!」
「「「きゃあああああっ!!」」」
キメ顔でカメラに語り掛ける忍足さんをずっと見ていると胸やけしそうだ。
日吉も同じことを思っていたようで、しばらくの間テレビから視線を外していた。
「…でもさ、忍足さんって本来こういうキャラなんだよね。」
「……何が?」
「いや、ほら。いつも先輩なんか忍足さんのこと親の仇のごとく滅多打ちにするでしょ?」
「うん。」
「それが染みついちゃって、たまに俺…あれ?忍足さんってもしかして先輩が言うように
紙一重で気持ち悪い人なのかな?って思っちゃったりするんだよね。」
「…仮にも先輩にひどい言い草だな。」
「ただ単に先輩のタイプじゃないってだけなのかな。」
「……先輩はあれで結構忍足さんのことは気に入ってると思うけど。」
「え?!どの辺が!?毎日部室で言い合いしてるじゃん!」
「……まぁ、そうだけど。」
「だって、この前日吉はいなかったと思うけど…
部室でから揚げに合うのはマヨネーズかレモンかっていうくだらない言い争いで
先輩が忍足さんの顔面にグーパンチ入れて、その報復で忍足さんが先輩にラリアットしてたんだよ?」
「………。」
「その後、半泣きで一旦部室を飛び出していった先輩が"そんなに好きならてめぇの鞄にマヨネーズぶちまけてやる"って言って
どこから持ってきたのか忍足さんの鞄にマヨネーズ入れ始めて、また大喧嘩になって大変だったんだよ?跡部さんが2人にバケツの水を浴びせたから収まったけど…。いなかったらどうなってたか…。」
「……俺達の先輩って、馬鹿なのか。」
「うーん、そうなのかもね…。賑やかでいいな、とは思うけど。」
たくさんの女子に囲まれて、満足気な忍足さんの顔が画面に映し出される。
それを見ながら、俺と日吉は小さくため息をつくのだった。