「13:00から体育館でライブやりまーす!」
「観に来てねー!」
「あ!!部長、アレを見て下さい!」
「なんと!氷帝のアイドルと名高い3-DのHYT48の皆さんじゃないですか!」
「さ、早速インタビューに向かいましょう!」
走っていく放送部2人を追う画面が揺れる。
既に人だかりができているその場所には、演劇ダンス部門第1位の向日先輩達がいた。
先程よりもさらに賑やかな歓声が聞こえる。
呟き欄にも次々に「推しメンバー」と言われる人を応援するコメントが届いていた。
「わぁ、こうやって舞台が無い時間に宣伝してたんだね。」
「…さすがだな。」
「なるほど…来年は俺のクラスも頑張ろう。」
「来年になったらクラスも変わって演劇じゃないかもしれないだろ。」
「あ、そっか…。日吉は来年の学園祭で何やりたい?」
「休みたい。」
「……そんなこと言って、結構楽しそうに看板娘やってたじゃん。」
「は?どこが楽しそうなんだよ。」
「昨日、先輩にいっぱい写真見せてもらったよ。カメラ目線でちょっと笑ってるのもあったなぁ…。」
「ただの盗撮だ。」
さすがに100枚ぐらい見せられたところで、トイレに行くと言って逃げてきたけど
写真に写っていた日吉は、結構楽しそうに見えた。本当素直じゃないなぁ。
「こんにちはー!HYT48の皆さん!」
「こんにちは。…あ、もしかして特別番組…ですか?」
「はい!私も昨日観に行きましたよー、田中君のピアノ素敵でした!」
「ありがとうございます。楽しんでいただけましたか?」
「もちろんっ!もう皆さんにもこの末本が自信を持って!オススメいたしますよ!」
末本さんに向かって、にっこりと優しく微笑む田中先輩。
その瞬間、呟きが一気に田中先輩ファンと思われる人々のコメントで埋まった。
「わぁ、これテレビ?みなさーん!HYTライブ是非観に来て下さいね!」
「大江さん、是非ライブの見どころを一言で皆さんに伝えて下さい!」
「え……っと、む、向日君!私上手く言えないから答えて!」
「お?…おー!これテレビじゃん!」
大江さんと呼ばれる先輩が、声をかけたのは向日さんだった。
向日さんにカメラが向けられると、また黄色い歓声が中継先から聞こえてくる。
「それでは向日君!HYTのライブの魅力を…ズバリ一言でどうぞ!」
「………全力で笑顔を届けるライブ!ってとこかな。」
「わぁ、なんか本当のアイドルみたいです!」
「…昨日ライブ観てた奴に言われた言葉そのままだけどな。」
「へぇ!ファンの言葉ってことですね?」
「…………まぁ、認めたくないけどそんなとこ。」
「これはますます楽しみですね!このライブが観られるのは今年だけ!今だけですよ!」
盛り上がる周りとは反対に、向日先輩は少し恥ずかしそうに画面からフレームアウトしてしまった。
…ふふ、照れてるのかな?
「後で観に行ってみる?」
「樺地も観たいって言ってたぞ。」
「そうなんだ!じゃあ3人で行こう!向日先輩もそうだけど、女の子の先輩も本当のアイドルみたいな感じらしいよ。」
「クラスの連中もすごかったって言ってたな。」
「…もし来年、日吉のクラスがアイドルライブやるって言ったら…フフ、どうする?」
「やるわけないだろ。」
「えー、結構人気出ると思うけどな。氷の王子!みたいな感じでさ。」
「お前の方がそういうのは得意だろ。ヘラヘラ笑顔振りまいてな。」
「ちょっと楽しそうだと思うけど。きっと先輩がものすごい奇声あげて応援してくれそうだね。」
「………来年はもう先輩たちはいないけどな。」
「……寂しいこと言わないでよ。」
さっきまで、俺たちの先輩ってとんでもない人たちなんだな、なんて言って笑ってたけど
日吉の一言で、なんだか寂しい気持ちになってしまった。