さん、いこ!」

「えー、どうせならジロちゃんとかに会いにいきたいよー。」

「ダメ!言っとくけど、跡部様のステージが観れるのは今年だけなんだよ?」

「……また笑っちゃいそうだよ…。」

「なんでもいいから、とにかく並びに行こう!」


私は今、強引に腕を掴まれずるずると廊下を引きずられている。
我らがリーダー、華崎さんの跡部ファン精神は素晴らしいと思う。
昨日も観に行った、謎の宗教公演を今日も観に行こうと言うんだから、すごい。
私はもうお腹いっぱいだ。昨日も思ったけど、跡部成分を過剰に摂取しすぎてしまう為か、
あの喫茶にいると軽く頭が狂いそうになる。なんか禍々しい空気が流れている、あそこには。

しかし、私が華崎さんに逆らえるはずもない。
仕方なくついていっていると、廊下にポツンと立ち尽くす人を見つけた。


「……え?幸村君何してるの?」

「あ、さん。良かった、ちょっと皆とはぐれちゃってね。」

「え、そうなの?」

「ちょっと!!!ちょっとさんこっち来て!」

「うわ、何!?」


写真部の教室の前に掲示されている写真を見ていた幸村君。
思わず声をかけると、華崎さんにものすごい勢いで引っ張られた。


「ね…ねぇ、何あの神々しい人…。

「…跡部の100倍はすごいでしょ?立海のテニス部の部長なんだよ。」

「……誘って。」

「へ?」

「っく…私には選べないんだもん!さんを利用してあの人としゃべりたいけど、
 でもだからって跡部様を見に行かないなんて選択肢は私には選べない…。」

「……幸村君と跡部を天秤にかけたら、跡部なんか羽毛レベルの軽さだと思うけど…。」

「バカ!私は跡部様ファンクラブなんだよ?ここで跡部様を捨てたら末代まで破門されちゃうよ。」

「過激な宗派なんだね…。…わ、わかった。一応誘ってみる。」

「Go.」


グっと親指を立てた華崎さんが、流暢な発音で私を送り出す。
……いいのかなぁ、幸村君はぐれたって言ってるのに…。



「…あのー、幸村君「いいよ。」

「え!」

「…ふふ、ゴメンね。全部聞こえてたんだ。」

「うわぁ、恥ずかしい!」

「……さん、どう?どう?来てくれそう?」


後ろから私の袖を引っ張り、目をキラキラさせる華崎さん。
静かに親指を立てると、勢いよく抱きしめられた。


「初めまして。さんのお友達?」

「あ、うん!うちのクラスのリーダーなんだけど、華崎さんです。」

「ど、どうも。よろしくお願いします。」

「そっか。俺は幸村精市です。」


相変わらず綺麗な顔で微笑む幸村君に、私も華崎さんも軽く倒れそうになる。
幸村君の方から差し出した手を、恐る恐る握って握手を交わす華崎さん。
……っう…羨ましい…。私も自然な流れで幸村君の手を握るというイベントを体験したい…!


「…それで、今からどこに連れて行ってもらえるのかな?」

「たぶん行きたくないと思うんだけど、跡部の喫茶だよ。がっかりしたでしょ。

「へぇ、跡部が…。興味あるよ、行きたいな。」

「ですよね!ごめんなさい、さんは氷帝の非国民なんです。

「この氷帝では、跡部を崇拝していないと非国民扱いなんだよ。ひどいよね?」

「やっぱり学校でもどこでも人気なんだね。跡部は。」


そう言って楽しそうに笑いながら、私たちは廊下を歩く。
出会ってすぐにこうして幸村君になじめる華崎さんはやっぱりコミュニケーション能力が優れてるんだろうな。
幸村君も同様に、すっかり華崎さんと意気投合して楽しそうに話している。
…ふふ、なんかこういうのいいな。友達の輪がどんどん広がっていく感じ。























「KING ON STAGE…面白い名前だね。」

「幸村君、覚悟した方がいいよ。私、まだ腹筋が痛いからね。昨日笑いすぎた影響で。

さんは笑いすぎだよ!跡部様あんなにカッコイイのに。」


「ようこそいらっしゃいませ、3名様ですね。」


今日も行列が出来て居るのかと思ったけど、
時間帯が良かったのか昨日程並ぶことはなかった。
並んでから10分ほどして、店内へと案内される。

今日は昨日と違った個室の様なスペースへと案内される。
店内に数か所しかない個室スペースに、華崎さんはすっかりテンションが上がっていた。


「わぁ、すごいよ!めちゃくちゃラッキーだよ私達!」

「なんか、こういう個室空間いいね!私もちょっと楽しくなってきた!」

「…すごいね、これ本当に跡部達が作ったの?」

「跡部様のクラスは特別だよ。スポンサーのレベルが違うっていうか…。」

「でもね、幸村君。この豪華な装飾に負けないぐらい、ここのクラスのサービスはクオリティが高いんだよ。」

「へぇ…。氷帝の学園祭はすごいね。とっても楽しいよ。」


メニューを見ながら感心したようにそう言う幸村君。
思わず、華崎さんと顔を見合わせてしまった。
……そんな風に言ってもらえると嬉しいな。

華崎さんも同じことを思ったのか、少し恥ずかしそうに笑っていた。






「今日も皆、これでいいよね!すいませーん!≪王室御用達 キングのティーパーティ≫お願いします!」

「あ!…あー、やられた…。」

「キングのティーパーティー?」

「…まぁ…、なんかエレクトリカルパレードみたいなものだと思って我慢してもらえれば…。」

「…そんなこと言ってるけどさー、さん昨日跡部様と目が合った時ちょっと赤くなってたじゃーん。」

「な!っなな、なななってないから!何言ってんの華崎さん!」

「幸村君、実はここだけの話…跡部様とさんは氷帝内でもものすごく噂になってる2人なんだよ。」

「やめてよ華崎さん、さすがに腕折るよ!捏造スクープはやめて下さい!」

「……それ、どういう話?もっと聞きたいなぁ。」


華崎さんの悪ノリに釘をさしていると、幸村君がまさかの興味を示してしまった。


「は…華崎さん、ダメだからね!もう何もしゃべらなくていいから!事実無根の噂を流すのは犯罪だよ!」

「えー、どうしよっかなー…。」

「華崎さん、良かったら…教えてくれないかな?」

「ひゃ…はい…!」


とんでもない…。

今、私の目の前で幸村君が華崎さんの目をまっすぐ見つめながら…
笑顔で首を傾けた…。何その乙女ゲーのスチルみたいな反応…!
そりゃ華崎さんも変な声でるよ…うっかり頷いちゃうよ……


「…ってダメだから!華崎さん目を覚まして!クラスメイトの親友と今日会ったばかりの幸村君、どっちを守るべきかわかるよね!」

「この前、さんが跡部様と一緒に下校してるのを見たって子がいるんです。」

「わかるよ…私でも幸村君を選ぶと思うんだけど、少しの躊躇いも葛藤も無くしゃべるよね…華崎さんね…。」

「……へぇ。もしかして二人は付き合ってるのかな。」

「な、そっそんな訳ない「そういう説も、実はあるにはあるんです。」


ダメだ…もう華崎さんの脳内から私の存在が抹消されている…!
…幸村君が華崎さんの目をまっすぐ見てにこにこ笑顔で話すもんだから、華崎さんはその快感を手放せなくなってる…。
もう麻薬と同じだよ…!私の噂を流せば流すだけ、その笑顔を独り占めできるんだから仕方ないよね…!


「いつもさんと跡部様は、見るのも痛々しいようなプロレス技をかけあったりしてるんですけど…
 でも…跡部様ファンクラブ終身名誉会長が言うには、跡部様がそれだけさんに心を開いてる証拠じゃないかって…。」

「……やっぱり、そうなんだね。」

「今の話跡部の目の前でもう1回したら、きっと華崎さんも跡部の特別になれるよ、きっと。喜んで代わってあげるよ。」

「…ここだけの話、さんもなんだかんだ言いながら部活中に跡部様にドリンク渡したり健気に想ってるところあるんですよ。」

「華崎さん知ってるかな?私、マネージャーだから跡部以外にも全員にドリンク渡してること知らなかったからそんなこと言っちゃうのかな?」


いい加減にこの華崎さんの悪ノリを止めなければ…!
とても口ではかないそうにないので、物理的に口を開けなくしてやろうかと色々考えて居る時だった。


「………少し、ショックだな。」

「「え?」」

「……俺もさんと同じ学校だったらな、ってちょっと考えちゃった。」


寂しそうにフフっと笑う幸村君。
ポンっと音を立てて頬を染める私に、華崎さんが舌打ちした。


「…ちょっと、さんどういうこと?」

「え…え!?な、何が?」


すぐさま華崎さんに肩を組まれ、幸村君に背を向ける。
こそこそと話すその声は怒気に満ちていた。


「…跡部様も幸村君もって…さすがに通るわけないでしょ?そんな我儘。わかるよね?

「べ、別にそういう意味で幸村君は言ったんじゃ………っていうか、もしそういう意味だとしても私は迷わず幸村君をとるよ!
 どうしよう、やっぱりそうなのかな!?幸村君とどうにかなれるのかな、私!興奮してきた!

「ねぇ、黙って。……さんにだけそんな幸運が降りかかるなんて…!友達としては嬉しいけど、私の本心は……」

「……え、な、何?」

全力で潰す。

「華崎さんのそういう素直なところ、私大好きだよ。」

「幸村君、残念だけど…さんの心も体ももう跡部様のものなんです…。」

裏切りの度が過ぎてるよ、華崎さん!ゆ、幸村君信じちゃダメだからね!」


綺麗な笑顔で幸村君にとんでもない嘘をつく華崎さんの口を、思わず塞ぐ。
目の前の幸村君は素直すぎるのかなんなのか、目を真ん丸にして見開いている。

っく…、ちょっとは私の言葉にも耳を傾けてくれよ幸村君…!

この面倒な場面をどう切り抜けようか考えていると、
パチッと店内の照明が消えた。

鳴り響く重低音。



響き渡る黄色い悲鳴。




飛び出してきた跡部。



この時、初めて私は跡部が来てくれて良かったと感じたのだった。






































パチンッ



「俺様のティーに酔いなっ!」



「っっきゃああああああ!跡部様あああああ!」

「わぁ、跡部カッコイイね。」




例のキメ台詞と共に私達の席へとやってきた跡部。
昨日は無かったはずなのに、衣装にマントが追加されてる。
そのマントを翻しながら、嬉しそうな表情でティーポットを掲げている。

隣には狂ったように叫ぶ華崎さん。
目の前の幸村君は素直に跡部にティーカップを差し出している。
私はというと、やっぱり2度目でも跡部のハイクオリティコントに笑いを堪えることが出来なかった。



「…っあ、ダメだ…お腹がつってる…なんか痙攣してぶふぉっ!あはははは!」

「あ、跡部様お願いします!」



「さぁ、淹れてやーるー!差し出せ俺様の〜前にー」



こんなにカオスな状態になっている席だというのに、
KINGである跡部は顔色一つ変えずに、謎曲を気持ちよさそうに歌い上げている。

ついに私達3人のティーカップすべてに紅茶を注ぎ終わり、
そのままパチンとウインクをして去って行ってしまった。

あまりの衝撃に華崎さんは固まっている。
幸村君も楽しかったのか、パチパチと拍手を送っていた。

……はぁ、やっぱり跡部はプロ意識が高くてさすがだな。
でもやっぱり、私の笑いのツボを強力連打してくるんだもん、あの歌。
ダメだと思いながらも、笑いは抑えられなかった。




















「おい。」

「…え……、きっきゃああああ跡部様!?」

「静かにしろ、プライベートだ。」

「やぁ、跡部。さっきは楽しかったよ。」


プライベートってなんだよ、と突っ込みそうになったけど
その前に幸村君が跡部を私達の席へと招き入れた。

こっそりと私達の席に現れた跡部。
さっきまで、私の悪評を幸村君に吹き込むことに全力を注いでいた華崎さんは
すっかり大人しくなって、跡部を見つめるただの可愛い乙女になっていた。


「…幸村、来てたのか。」

「うん、他の皆もいるんだけどちょっとはぐれちゃってね。
 さんと華崎さんに誘われてここに来たんだよ。」

「氷帝の学園祭はどうだ。」

「楽しませてもらってるよ、来年も遊びに来たいなって思うぐらい。」

「…そうかよ。」


幸村君と跡部の間に流れる、なんとなくふんわりとした空気。
……いつもこの2人はライバル校の部長という立場だから、
なんとなくピリっとした雰囲気になっているところしか見たことない。

でも今、目の前で談笑している2人はなんだか年相応の同級生に見える。
跡部もこうして氷帝を紹介できるのが嬉しいのか、表情が柔らかい。

…テニスではライバルだけど、
こうして普通に友達として仲良く出来るのはいいことだなぁ。
そんなことを思いながら微笑ましくその場を見守っていると、
チラリと幸村君が私に目線を向けた。


「…そういえば、さっき聞いたよ。」

「アーン?何の話だ。」

「氷帝では、跡部とさんが付き合ってるっていう噂で持ち切りだって。」



パリーンと空気が割れる音が聞こえた。



さっきまであんなに優しい表情だった跡部からは、隠しきれない怒りのオーラが噴出している。
そして、何故かそのオーラが私に向けられている気がする。いや、それはおかしい。
おかしいはずなんだけど、完全に私を睨んでいる。


「なっ…わ、私は完全否定してたんだよ!なのに華崎さんが…」

「ッチ…。幸村、言っておくがその噂は完全なる捏造だ。」

「私も何度もそう言っての一方的な好意だ。俺にその気は一切ない。」

「そうだよ!大体なんで私が…………いや…いや、ちょっと待って。」

「わかったらつまらねぇ噂なんかしてんじゃねぇ。」

「ちょっと待って、私の理解能力が足りないのかもしれないから1回質問しても良い?」

「なんだ。」

「……今の話だと、私は跡部が好き、みたいなおぞましい話になってない?

「その通りだろうが。」

「ふっざけないでよ、何それ?!どっちかと言えば跡部が私にかまって欲しくて積極的に暴力という間違ったアピールしてるんでしょ!好きな子に意地悪しちゃうのは、小学生までにしとかないとさすがにイタイよ!」

「あ?言葉には気を付けろよ、学園祭とか関係ないぞ。


こいつ本気だ。本気で拳振り上げやがった…!
い、いやでもここで引いたら幸村君に勘違いされたままだ…!
ここは徹底抗戦して…そ、そうだ!
こうやっていつものように、周りがドン引きするレベルの喧嘩を繰り広げれば
自然と「もしかしてさんと跡部は本気で憎み合ってるのかな?」って感じで幸村君に解釈してもらえるはずだ!
そうと決まれば早い方がいい。私は早速いつものように挑発を始めた。


「…ふ、ふん!またそうやって私にかまってほしいからっていでぇっ!ちょっ、ちょっと待って話し合おう!

「黙れ、俺のこの怒りが本物だってことを身体に教え込んでやらねぇといけないみたいだな。」

「な、なんで一々解釈によっては違う意味に聞こえる言葉をねじ込むのよ!そういうのが勘違いされる原因でしょ!」

「もっとシンプルに言った方がいいのか。今からお前をボコボコにする。

「怖い!それはそれで怖い!
……っと、とにかく幸村君!こんな感じで私と跡部は常にデスマッチを行っていて………」


私の「跡部との噂を払拭する」という意図は、アホの跡部には全く伝わっていなかったみたいで
跡部は私の安い挑発に簡単に乗って、怒り沸騰寸前だった。これ以上やると、間違いなく私の命が危ない。

なんとか話をまとめようと幸村君に釈明をしようとすると、
何故か幸村君の隣にどこかで見たことのある人が、マイクを持って座っていた。



「………いや…な、何?」

「どうも!放送部の特別番組の取材です!」

「いやぁ、氷帝の噂は本当だったんですね。テニス部には部長と対等に拳を交える闇のマネージャーが存在するって!」



状況が飲み込めない私と跡部に、マイクを近づける放送部らしい2人。
よく見ると1人は放送部部長の間中君だ。副部長の末本さんもいる。

ばっちりこちらに向けられたカメラに段々と状況が見えてきた。
と、同時に冷や汗が出てきた。


「……え…、このカメラってまさか…。」

「はい!今校内全てのモニターで放送されているんですよ!」

「いやぁ、跡部様のクラスを取材に来たんですが…KINGの意外な素顔が撮影できましたよ!」

「わぁ、呟きも盛り上がってますねぇ。…"年相応の男の子みたいで、跡部様可愛い!"ですって。」

「……アーン?」


……つ、つまりよくわからないけど
今、私と跡部が繰り広げていた見苦しすぎる喧嘩が…
皆に見られてたってこと…?


「こ、困るよ!私がバカみたいに見えるじゃん!跡部に合わせてただけなのに!」

「お前がピーピー騒いでたから遊んでやってたんだろうが。」

「…仲が良いんですねぇ、お2人。あなたはどう思います?」


間中君が、すぐ隣にいた幸村君にマイクを向ける。
突然話を振られた幸村君が、少し驚いたような顔をした。


「ちょ、幸村君は関係ないので…」

「仲が良いなって思いますよ。」


助けようとした私の声は、幸村君の声によって遮られる。
笑顔でそう言う幸村君に、末本さんはラッキーとばかりに話を掘り下げる。


「ですよね、やっぱりあの跡部様と同じ部活にいるとマネージャーも恋をしちゃうんでしょうか!」

「なっ……!」


突然の発言に対応が出来なかった。

末本さんに悪気が無いのはわかる。
番組を盛り上げるために、跡部の氷帝での圧倒的人気を演出するための発言だっていうのもわかる。


だけど、その言い方だと私がまるで……



「少なくとも俺が知っているさんは、そういう気持ちで部活に取り組んでる訳ではないと思いますけど。」

「……幸村君…。」

「…っあ、ご、ごめんなさい!そうですよね!全国強豪の氷帝テニス部ですもんね…失言でした。」


思わず涙が出そうな発言をサラっとしてくれる幸村君。
末本さんもしまったと思ったのか、すぐに私に向けて申し訳なさそうに手を合わせた。

……やっぱり、幸村君は神様だよ。
たった一言で、こんなに嬉しい気持ちにさせてくれるんだもん。



「……でも、いつも部活を頑張ってるさんが魅力的に見えるのは俺も同じです。」

「おっと!そ、それはつまり…」


まずい、話がもっと変な方向に向かってしまいそうだ…!
ここでカメラを遮って無理矢理放送事故にしてしまおうかと思ったその時、
私の隣にいた人物が動いた。


「おい、放送部。」

「え、はい?!なんでしょう!」





「このクラスを撮りにきたんだろうが。俺様だけ映してればいいんだよ。」






そう言って、カメラを鷲掴みにした跡部。
きっと今モニターには跡部のどアップが映っているんだろう。

このクラスだけじゃなく、遥か遠くの中庭や校舎内からものすごい悲鳴が聞こえた。
……ほ、本当に校内中に放送されてるんだ、これ…。


「仕方ねぇな、特別だ。…今から、もう1公演追加してやる!」

「ほ、ほほほ本当ですかー!やりましたね、部長!」

「公演の時間に遅れた時は、どうなることかと思ったが…さすが跡部様!太っ腹です!」

「さぁ、準備しろ!カメラも、カメラの向こうのお前らも…目を逸らすんじゃねぇぞ。
 キングのティーパーティー…スタートだ!


やばいよ跡部…ハードルめっちゃあがってるよ今…!

「目を逸らすんじゃねぇぞ…」って言っておきながらあの謎曲が始まったら
皆の腹筋はどうなっちゃうの!?

…でも、私の不安は全く的外れだったようで
跡部の公演が始まった途端、喫茶内はものすごい熱気に包まれ
学園内にいる全ての人が番組に夢中になっていたそうだ。



…なんだかんだ、跡部が全部持って行ってくれたなぁ。





















さん、やっちゃったねー。今の、たぶん学園祭特別番組だよ。」

「……そ、そんなの去年あったっけ?」

「今年から始まったらしいよ。私も初めて見たけど。」



跡部の公演が一段落した後。

華崎さんが、携帯で氷帝学園のホームページを見せてくれた。
確かにそこには特別番組の内容が書かれている。

…醜態が皆の目に入ってしまったのかと思うと、
今すぐに暴れ出したいような気持ちになるけど…

でもその前に…


「…幸村君、ありがとう…!私…嬉しかった。」

「思ったことを言っただけだよ。」

「本当に助かったよ!なんか最終的に上手く話もまとまってたし…。さすが幸村君だよー!」


思わず幸村君に向かって手を合わせてしまう。
神々しい…同い年に思えないこの余裕と、ウィットに飛んだ発想…!素敵…!
改めて幸村君の素晴らしさに感謝していると、
公演後の跡部がまたこっそりと私達の席に来た。

かと思うと、私や華崎さんの方は全く見ずに
幸村君の隣に座り、何やらこそこそと話し始めた。


「…今回は礼は言っておく。」

「フフ、素直に受け取っておくよ。」

「…意外とよく見てんじゃねぇか。」

「跡部に負ける訳にはいかないからね。」

「…まぁ、特別に今日ぐらいは好きにさせてやる。」

「何それ、まるでさんを自分の所有物みたいに。」

「その通りだ。どこに行ってもあいつは必ず戻ってくるからな。」

「……余裕だね。」



「ねぇ、何の話してんの?」


楽しそうに笑いあう跡部と幸村君。
面白い話だったら私も聞きたいと思い声をかけてみたものの、
跡部に嫌そうな顔で睨まれてしまっただけだった。


「…礼を言ってただけだ。」

「うん、さっきのテレビの件でね。」

「なんだ、偉いじゃん跡部。普段からそれだけ素直なら可愛げもあるのにね。」

「うるさい。…おい、例のアレだ。」


パチンと跡部が指を鳴らすと
ウエイターの男の子が、ものすごく大きなパフェを持って現れた。


「え!?何これ何コレ!」

「…≪キングのお気に入りデラックス≫だ。」

ネーミングは結構ダサいんだね…。

「お前にやるわけじゃねぇ。おい、幸村。受け取れ。」

「え、俺に?わぁ、ありがとう。」


そう言って席を立つ跡部。

……なるほど、跡部なりのお礼なのかな。
それにしては偉そうな物言いなのが気になるけど、跡部だから仕方ないか。
幸村君も嬉しそうにしてるし…。


「…他の奴らにも言っておけ。存分に楽しめってな。」

「ありがとう。楽しませてもらうよ。」

。」

「へ?あ、な、何?別に幸村君に許可が取れたら私達も一緒に食べていいでしょ?!」


こっそりスプーンを私と華崎さんの分も頼んでいるのがバレたのかと思って
身構えていると、意外にもそうではないようだった。


「………はしゃいでんじゃねぇぞ。」


それだけを言って、去って行ってしまった。
…幸村君には楽しめよ、なんて優しい言葉をかけておきながら
私には釘をさすって…一体なんなんだよ…。

おもわずスプーンを持ったまま固まっていると、
目の前の幸村君がクスクスと笑い始めた。


「…な、何なんだろうねー。本当ムカつくよね、人の事子供みたいに言っちゃってさ。」

「フフ、意外と余裕じゃないのかもね。」

「…私もそう思いました。跡部様って本当可愛いですよね。」

「え?跡部が?全然可愛くなくない?


幸村君と華崎さんが、うんうんと頷きながら笑いあう。
…今の跡部の発言に可愛い要素とか見あたらなかったんだけど…。
ただ、いつものように私にとにかく何か言ってやらないと気が済まないっていう
跡部のいじわる精神でしかないんだけどなぁ。


「いや、何でもないよ。折角だからパフェ食べよっか。あ、もうさん食べてるね。

「はっ!ご…ごめん、つい勝手に手と口が…!」


謝る私にプっと吹き出す幸村君に華崎さん。

…何か本当に色々あるけど、学園祭ってやっぱり楽しいなぁ。

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