「お待たせいたしました!それでは、特別番組の午後の部スタートでーす!」
「午後からも、間中と末本のコンビでお送りしていきますよー!」
「それでは早速中継場所へと向かってみましょう!」
「俺、さっきこれ映ったわー。」
「へぇ、そうなんだ。観てなかったなぁ。」
「俺も俺も!これさ、呟きとかもリアルタイムで流れるんだぜ。」
忍足が持ってきたお好み焼きを頬張りながら
部室のでかいモニターで、学園祭の特別番組を観る3人。
忍足、向日、そして俺。
なんとなく意外なメンバーだけど、「お好み焼き食べたい」ってメールしたら
部室に来いって誘われた。
「滝のクラスの宣伝隊も映ってたぞ。」
「へぇー…。そうなんだ。っていうか、この呟きって俺も送ること出来るの?」
「せやで。ホームページから送れるらしい。」
忍足は1度、コメントを投稿してみたらしい。
…なるほどね、これは結構楽しいかも。
毎年氷帝の学園祭は新しい何かが増えていく。
どの生徒も、前年を超えようと努力する結果どんどん進化していってる。
「さて!やってまいりました、ここは3-Cの教室です。」
「うんうん、もう何だか懐かしいような音楽が聞こえてきていますね。」
「それでは早速中に入ってみましょーう!」
「おお!これは…ものすごく良い雰囲気ですね…。どこか懐かしさを感じさせる夕暮れの風景です。」
画面に映る光景を見て、2人がおーっと声をあげる。
…へぇ、宍戸とジローのクラスはこんな感じだったんだ。
俺は毎年ほとんど他のクラスを周ったりということをしないから、
こうして色んなクラスをダイジェストで見ることができるのは結構有難い。
「宍戸達、映るかな。」
「今、2人とも店番してるはずやから映るんちゃう?」
「あ!あれあれ!ほら、この端っこに映ってるのそうじゃね?」
バタバタと向日が画面へと向かって走る。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら指さしている画面の端っこの方に
確かに見覚えのある顔が2つ映っていた。
「あはは、なんかこれ結構楽しいね。」
「へへ、俺呟き送ってみよ。……宍戸、ジロー……見てるかー…っと!」
「……お、流れてきたで。この@がくとって書いてるのがそれやろ。」
「おう!うわー、いいなこれ。面白いじゃん。」
普段、テレビ画面に知り合いが映ることなんてないからなのか
何故だかわからないけど楽しくなってくる。
2人もそれは同じみたいで、いつの間にかお好み焼きを食べる手が止まっていた。
「それでは、早速インタビューをしてみましょう!」
「宍戸さん、芥川さん!お願いしまーす!」
「はいはーい!やっほー!皆観てますかー!」
「…お、俺たちのクラスでは、縁日というよくある出し物を、
いかに自分達らしく、ちゅくり…作りあげられるかということを
学級会の時間などを使って、たくさん、話し合いました。」
楽しそうに手を振るジローとは対照的に、
カンペらしき紙を見ながら、一生懸命それを読む宍戸。
2人が映った瞬間に、部室は爆笑に包まれた。
「あはははは!宍戸めちゃくちゃ緊張してんじゃん!」
「っていうか今…ちょっと噛んだよな。」
「よく見て、手も震えてるし汗もかいてるよ。」
「はー、昔からこういうの苦手だもんなあいつ。」
「ジローはえらい楽しそうやけどな。」
「あいつはそういうの何も気にしなさそうだもんね。」
緊張しまくってる宍戸の肩を、ジローがバシバシと叩く。
呟きの方も、緊張している宍戸を励ますメッセージでいっぱいだった。
「"宍戸先輩大丈夫です!噛んでも可愛いです!"…だって。」
「これ見たら宍戸、余計に緊張して真っ赤になるんやろなぁ…。」
「宍戸君、緊張しなくていいよ!ほら、皆の励ましのメッセージが届いてますよ!」
「"一生懸命さが伝わってきました。後で遊びに行こうかな。@りーちゃんまま"ですって!」
「すっげー!これ皆が今見て呟いてくれてるってこと?りーちゃんまま遊びに来てねー!」
珍しく興奮した様子のジローが、画面に向かって笑顔で手を振ると
私も遊びに行く!というコメントが大量に流れた。
…やっぱり天然で人たらしの才能があるよね、ジローは。
「…そ、そそそれでは、こちらを案内します。どうぞ。」
しかし、そんな声も届いていないのか緊張しまくりの宍戸が
びっくりするほどの棒読みで放送部の2人を教室内へと案内する。
その様子がウケているのか、どんどん3-Cには人が集まっていた。
「ここは、たくさんの景品が並ぶ射的コーナーです。
小さなお子様から、大きなお友達まで、楽しんで、いただけます。」
カンペを読みながら必死に話す宍戸にも段々と慣れてきた時だった。
画面の右側からフレームインしてきた人物達に、俺たちは同時に声をあげた。
「…え!今の…今のなんか知り合いじゃね?」
「…立海の……丸井ちゃうん?」
「ジャッカルと切原も見えた気がしたけど。」
俺達が観たものは間違っていなかったようで、
必死に屋台の説明をする宍戸の隣で、ジローが大きな声をあげた。
「ああああ!丸井君だ!」
「おお、ジロくん。やっぱりここにいたんだ。」
「よ。縁日か、すげーな。」
「あ、あなた達はさっきインタビューさせてもらった…
芥川君とお知り合いなんですか?」
「ん?おお、テニス部だからな。」
「へぇー!……そうだ!もしよかったら皆さんが縁日で遊ぶ姿を密着取材させてください!」
「いいよいいよー!丸井君はね、天才的だから射的だってスコーンと当てちゃうよ!」
「…確かにこのメンバーが揃ったら、視聴者の女子は喜びそうだもんねぇ。」
「っつか見て!見てアレ、画面の端っこで宍戸がまだカンペ読んでるぞ!」
「ぶふっ!…ほんまや、もうカメラに映ってへんのに…可哀想に…。」
「あはははは!やっぱ宍戸は神がかってんな!」
画面の端で、一生懸命カンペを読んでいる宍戸には触れずに、
番組はどんどん進んでいく。
ジローに渡された射的用の銃を持って構える丸井。
その横顔を狙ったカメラワークに、今きっと校内中の女子がざわめいているのだろう。
哀れな宍戸はそのままフレームアウトした。きっと未だに何かしゃべってるんだろうけど。
パコーン
「わー!さすが丸井君!ポッキーに命中したよ!」
「へへーん、天才的ぃ?」
「丸井君カッコイイー!」
「よっしゃ、俺にもやらせてくださいよ。あのお菓子狙っちゃおー。」
「はい、当たらないと思うけどやってみたら?」
「何だよ、その対応の差は!」
切原にはやたらと冷たいジローに、みんなが笑った。
プリプリと怒りながらも、銃を構えた切原は
見事に一発でクッキーの箱に当てた。
周りからパチパチと拍手が起こると、照れたように切原が笑う。
「やった!このクッキーさんにあげよっと。」
「……は?何?」
「何だよ、別に俺が当てたんだからどうしようと勝手だろ。」
「…ちゃんはクッキー嫌いなんですけどー。」
「嘘つかないでくださいー、この前好きって言ってましたー。」
「君からもらうクッキーは嫌いって言ってるんですけどー。」
「は?なんだよ、喧嘩売ってんの?」
「こっちの台詞なんだけど。」
「……うわぁ、めっちゃアホみたいな喧嘩や…。」
「な、ものすごく放送時間の無駄だな、これ。」
「放送部も早く止めればいいのに。」
ジローと切原の言い争いが始まったところで、
放送部の2人が慌てて割って入った。
「と、ということでね!こんな感じでお菓子を!ゲットできちゃうんですね!」
「是非、皆さん遊びに来て下さいね!」
「それでは最後に宍戸君から……あれ!?宍戸君!?」
キョロキョロと辺りを見渡す放送部2人にカメラ。
その時、カメラがとらえたのは
屋台の前で、未だにカンペを読んでいる宍戸だった。
「屋台の、骨組みになっているのは、クラスメイトの骨川が持ってきてくれた
木材です。骨川のお父さんは、大工しゃ…だいっ、大工しゃんをしていて」
「宍戸君宍戸君!ごめんなさい、もうタイムアップです!」
「最後に一言お願いします!」
「は!?…え、いきなり…えーと…取り敢えず、骨川のお父さんはカッコイイ大工さんです!」
大きな声で宣言した瞬間、画面がタイトル画面に切り替わった。
俺達は、誰からともなくすっかり冷めてしまったお好み焼きをまたつまみ始めた。
誰も何もしゃべらなかったけど、じわじわと笑いがこみあげてきた。
…宍戸は…なんで、
なんであの場面で骨川君の個人情報を叫んだんだろう。