「おー…なるほどね。意外かもしれない。」
「何なに?結果はどうだった!?」
「さんにぴったりの彼氏像は……。」
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「どう考えても……あの占い結果は…」
占部さんの口から告げられた、彼氏にぴったりの「タイプ。」
しかも、その後にタロット占いもしてもらった結果…
既にその人物は身近にいるとまで言われた。
「年下で…中々さんには振り向かなさそうな人だね。
だけど、その人を追いかけてる時間はさんにとって全然悪いものじゃないの。
むしろその時間がさんをより良い方向へ導いてくれると思う。
あと…タロットの結果を見てると、海外…いや、帰国子女かな?
海外に関連する結果が出てるよ。そう言う人、身近にいる?」
年下で、身近にいる帰国子女…パっと最初に思いつくのは…。
さっきまで一緒にいたお師匠様の顔を思い浮かべながら私は完全に浮かれていた。
まさか私の運命の人がお師匠様だったなんて。
確かに考えてみれば、出会いも運命的だったし…
それに私に振り向いてくれるどころか、近づけば離れていくみたいな猫っぽいところもあるし…
怖い程特徴が一致している。
「…へへ……これがもし本当に当たってたらうわっ!!」
ボーットしながら廊下を歩いていると、廊下の角で誰かとぶつかった。
思わずよろけていると、パシっと私の手を何かが掴む。
「………うそ……。」
「…なんだ、か。」
私の手を掴んでいたのは、お師匠様だった。
さっきの占い結果の所為なのか、目の前のお師匠様のバックにキラキラの星が飛び交っているように見える。
間違いない、お師匠様は運命の人だったんだ。ありがとう占部さん!!
「…お師匠様、なんでここに?1人?」
「…トイレ。探してたんだけど。」
「あ、連れていくよ!きっとこれも運命だしね!」
「…何変なこと言ってんの。」
「…………別に待ってなくても良かったのに。」
トイレから戻ってきたお師匠様が、私の姿を見て、小走りで離れていく。
恐らく、私がお師匠様がトイレに入って行く流れで一緒についていこうとしたのがダメだったんだと思うけど、
運命の人であるはずの彼は、今、明らかに私のことを汚い何かを見つめるような目をしている。
こんな…直線距離で50mはある場所から話しかけられるなんて、初めての体験だよ…。
「ち、違うのお師匠様。話を聞いてほしい!」
「待って。そこから動かずに話して。」
思わずベンチから立ち上がって駆け寄ろうとする私を、
お師匠様が手で制す。「待て」と言われた犬のようにその場で固まる私を見て
お師匠様がゆっくりと頷く。あ、話して良いぞという合図でしょうか。
「………私達、運命なんだ。」
「本当に気持ち悪い。」
「言い方が悪かった!やめて!その目やめて!」
言いたいことが頭のなかでこんがらがってしまい、
思わず口をついて出た言葉。タイミング的に誰がどう聞いても
悪質なストーカーの言い訳だった。反省してる。
ゆっくりと後ずさりを始めるお師匠様に
なんとか弁明を続けること数分。やっと彼の半径10m以内に侵入することを許可された。
「…で、そのよく当たる占いの結果がね!どう考えてもお師匠様だったんだ!」
「………ふーん。」
「そのタイミングでお師匠様が現れたもんだから…、なんか運命っぽいなと思って…!」
「男子トイレに何食わぬ入ってくる女子はイヤ。」
「え!じゃあ男子トイレに入らない女子なら運命感じるってこと?」
「普通の女子は入らないから、以外ってことになるね。」
「…っなるほど…!頭の回転早いね、お師匠様…!」
あっさりと運命の人から戦力外通告を受けた私はがっくりとうなだれた。
もしかしてお師匠様じゃないのかな、私の運命…。
そこで、占部さんに言われた結果を思い出す。
「中々さんには振り向かなさそうな人だね。
だけど、その人を追いかけてる時間はさんにとって全然悪いものじゃないの。
むしろその時間がさんをより良い方向へ導いてくれると思う。」
……そうだよ。
すぐには振り向いてくれない人だって言ってたじゃん!
ここであっさり「そうです、あっしが運命の相手です。」なんていう人じゃないってことだよ。
…わかったよ、占部さん。こんなとこで…くじけるなってことだよね!
「大丈夫、お師匠様!運命ってそう簡単に諦めちゃいけないものなんだよ!」
「何言ってんの?」
「占部さんが言ってたんだ。私の運命の人って、中々振り向いてくれない人なんだって。」
「…………。」
「でも確かに、私…考えたら一直線っていうか…そういうところあるし…
振り向いてくれなくても、地獄の果てまで追いつめる自信はあるんだ!」
「……なら、その運命の人は俺じゃないかもね。」
なんとか「お師匠様は私の運命の人説」をごり押ししようとしてみたものの
お師匠様は少し笑ってそれを否定した。
しかしそれぐらいでへこたれる私ではない。
占部さんの占い結果、そしてタイミングの良すぎるお師匠様の登場。
よく考えれば、運命の人と断言するには材料が少なすぎる気がしないでもないけど、
今更引くに引けない。
もうお師匠様と海の見える真っ白な教会の前で愛を誓いあう未来まで想像してしまった私を
誰も止めることは出来ない。
お師匠様が嫌がれば嫌がるほど、「運命の人説」の信憑性が増していく。
だって、中々振り向いてくれない人が運命の人だから…!
頭の片隅で冷静な私が、「それがストーカーの思考回路だよ」と小さな声で叫んでいるけど聞こえない。
「……きっと、これも二人にとっての試練なのかな!私頑張る…」
「そうじゃなくて」
説得に熱がこもりすぎて軽く汗がにじむ。どこからどう見ても必死過ぎてキモイ。
それでも握り拳に力を込めながら、次の言葉を考えていると
私の口をお師匠様の指が塞いだ。
お、おおおお師匠様の綺麗な人差し指が…今私の…私の口元に…!
思わず口をつぐみ、真っ赤になってそれ以上動けずにいる私を見て、お師匠様が不敵に微笑む。
「…とっくに俺はに振り向いてるでしょ。」
「……その手があったか…!」
一瞬、色んなものが頭の中を駆け巡った。
「え?それってもしかして私の事…!」なんて都合の良いことを考えたのも束の間。
私は、その言葉の裏に隠された本当の意味に気付いてしまった。
憎い…自分のよく働く頭が憎いよ…!
「わかった?」
「……お師匠様が…そこまで運命に抗う姿勢を見せるなら…っく…仕方ないね…!」
「……どういう意味?」
「いくら私と言えど、今の会話の流れからわかるよ!お師匠様の言わんとすることがね。」
「…………。」
私に振り向いている…、つまり俺はお前の運命の人じゃねぇんだよわかったかポンコツ…そう言いたいんだよね…。
これは一本取られた。ごり押しすればなんとか丸め込めるんじゃないかと考えていた自分が浅はかすぎて恥ずかしい。
自分の心に嘘をついてまで私との運命説を否定するなんて…。
しかも相手はこの私だ。ポジティブシンキングに定評のあるだ。
一歩間違えれば、言葉通り捉えて「じゃあ次は結婚式の日取り決めだね!」ぐらい発想が飛躍してもおかしくない人間だ。
…そんなリスクを冒してでも、私に諦めて欲しかったんだね。
あっぱれだよ、肉を切らせて骨を断つ戦法だよ。
「…なんか…、なんかすいませんでした。ちょっと…なんていうか…。
この学園祭の雰囲気で、ちょっと舞い上がっちゃってて…はい…。」
「………。」
「ごめんね…、いきなり気が狂ったみたいな発言連発して怖かったよね。
でも…ふふ、少しだけいい夢見させてもらったよ…!ありがとう!お師匠様に幸あれ!それじゃ、またね!」
冷静になってみると、私は年下の、しかも他校生の子に何をしていたんだろう。
真顔で私を見つめるお師匠様の目が段々と怖く思えてきた。
一連の狂気じみた言動をごまかすようにその場から逃げてみたけど…大丈夫かな…。
私の狂気を垣間見たお師匠様が青学の皆に「アイツ絶対危ない薬とかキめてる感じッスよ」とか言いふらさないかな…。
後でメールでフォローしておこう。そうだ、一時的に記憶を失って悪魔に憑りつかれていた設定でいこう。
そんなことを考えながら、必死に廊下を走った。
その後ろ姿をお師匠様がずっと見ていたことなんて、もちろん気づくはずもなかった。
「…結構分かりやすく言ったつもりだったんだけど。」
あなたにぴったりの彼氏像は越前 リョーマでした!